第30話 想いを胸に
ユータたちがメイリアの呉服屋から出て正門に向かうと、正門に集まった冒険者たちの先頭には、リヒトマンとヴァイクの姿があった。
時間は午前十一時五十分。辺りの空気は、今までにはない脅威との戦闘を前に、この上なくピリピリしている。
ユータとセリカは人ごみをかき分け、集団の先頭にいる二人の元へと進んでいった。
ユータたちが近づくと、それに気づいたヴァイクが二人に声をかけた。
「おう、セリカ――と、もしかして、ユータか?」
ユータは、周りに気づかれないよう、ローブのフードを上げ、ヴァイクにだけ自分の顔が見えるようにした。ヴァイクはユータの顔を見ると、何かを察したようで、ユータの背中をバンバン叩いた。
「大丈夫だ、ユータ。俺たちはお前がそんなことをするやつじゃないって知ってる」
ヴァイクのその一言に、ユータは泣きそうになる。
「まあ、ユータの顔をした奴がこの街を破壊すると言ったときは、正直肝が冷えたけどな。実際、ユータのことを知らない奴がそれを真に受けて、お前を目の敵にしているのも事実だ」
ヴァイクが困った顔をすると、隣でそれを聞いていたリヒトマンが口をはさんだ。
「幸い、俺らに近い人間は、ユータが元凶ではないということを知ってはいるが、それ以外との間で認識のズレがあるな」
セリカはハッとした。もしかしたら、メイリアが何も言わずセリカたちを送り出してくれたのは、きっとセリカたちを信じていたからなのではないかと。
リヒトマンはユータの問題はそれとして、ユータたちに巨神たちの迎撃作戦について教えてくれた。
ここにいる冒険者たちは、それぞれ五体の巨神たちに役割を振っている。街に接近している順に一番隊から五番隊まで隊を作り、一番隊に最も戦力を割いている。二番隊から五番隊までは、主に巨神の足止めを担い、一番隊が担当の巨神を
「それにしても、ユータの皮を被ったやつは、一体全体どういうやつなんだ?」
リヒトマンが、面倒ごとを起こしやがってと言わんばかりにユータの顔を見る。
「まあそれも、あの巨神どもを倒してしまえば解決するだろう」
ヴァイクが拳を打ち鳴らし、意気揚々と吼える。
「そうだな。事情は後で詳しく聞かせてもらうとして」
リヒトマンは巨神の方を向く。五十メートルの巨神たちはエストマルシェを見下ろすほどに接近しており、後、数分で正門に到着しそうだった。
ヴァイクはユータの方へ向くと、冒険者集団の最左翼にある隊を示し、
「ユータたちは五番目の隊で、一番奥の巨神が担当だ」と言った。
ユータたちはヴァイクに促されるまま、指定された隊に向かう。隊は、五十人程度で構成され、他の隊よりも少し人数が多かった。
五番目の隊をよく見ると、見知った顔ぶれが並んでいる。闘技大会で相手をした連中。リドルにジャイロ、ハイドもいる。他の面子も、あまり強い武器を持っていないように見える。どうやらここは、若手を集めた隊らしい。
ユータは他の人にばれないよう、最前列にそれとなく割り込んだ。
ユータたちが列に着くと、ヴァイクは時計を確認した。巨神到達まで、あと三分。
「リヒトマン!」
リヒトマンに向かって合図をする。
「ああ!」
リヒトマンが振り向き、冒険者たちに言葉をかける。
「皆、聞いてくれ」
リヒトマンの一言で、今までざわついていた冒険者たちが、水を打ったように静かになった。
ついにこの時が来たのかと、冒険者たちは覚悟を決めた。
「今まさに、エストマルシェは存亡をかけた危機に瀕している。ここに集まった我々は、己の力で、この危機を脱しなければならない。この中には、ただのバラック小屋の集まりだった頃からこの街で過ごしてきたものもいるだろう。この街ででかい夢を見ようとしたものもいるだろう。この街で出来た仲間とバカ話をするのが好きなやつもいるだろう」
「ああ、ついでに昼間っからビールが飲めるのなら最高だ」
「お前はいつも飲んでばっかだろ」
群衆から威勢のいい声と突っ込みがあがり、緊張した街の人たちにひと時の笑いが生まれる。
リヒトマンは苦笑し、今一度、静かに群衆を見渡し、言葉に力を込める。
辺りが、再び静まり返る。
「今、我々の街が、破壊されようとしている。我々は、その不届きなやつを打倒しなければならない! 我々が打倒すべきは、我々が築きあげたこの街を破壊しようとするあの巨神だ。これは、エストマルシェ、いや、厨時代の歴史に残る戦いだ!」
「勇猛なる戦士諸君。我々の手で、我々の街を救うぞ!」
リヒトマンが右手を高々と上げると、それに呼応するように、エストマルシェに集う全ての人間が、雄叫びをあげた。
群衆の放つ声が、怒号となり、波となる。
自分たちが築きあげてきた街を守るため、冒険者たちは一丸となり、それらが五つに分かれて、それぞれ巨神に向かって走り出した。
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