第12話 ジャーナリスト竹平
闘技場選手用通路。ジャイロたちとの準決勝が終わり、パブロが闘技場から退散しようと足を速めていた時、目の前に一人の男が立ちふさがった。
「お疲れ様です。モンスター造形師、パブロさん。あなたとは以前からお会いしたかった」
男は、
「どうも。君は?」
パブロが怪訝そうな顔でそう聞く。
「ご紹介が遅れました。私はジャーナリストの竹平です」
竹平と名乗った男は、頭のベレー帽を取り、深々とお辞儀をした。
「君、何か胡散臭いね」
パブロは思ったことを、素直に口にした。
「あはは、よく言われます。私、話題のルーキーや、有名な人を取材して、それらの広報をやっておりまして。改めまして、パブロさんにいくつか質問があるのですが」
竹平は、パブロの歯に衣着せぬいい方を気にも留めず、淡々と続ける。
「構わんよ。手短にね」
周りに誰もいないことを確認し、パブロはそう言った。
「なぜ、正体を隠してまで、初心者向けの大会に? 」
「ちょっと、モンスターの調整をね。一つ、面白いのを思いついたから」
二人の問答の最中、リドルが目を覚ましたが、意識がおぼつかないようで、そのままボーっとしていた。
「あれ、バレなければ優勝しちゃってましたよね」
竹平が苦笑する。
「いや、途中で適当に抜けるつもりだったんだけど、つい、熱くなっちゃってね。まあ、真剣な場に水を差したことは謝るよ。これでいい?」
「分かりました、ありがとうございます。それでは、今回のテーマは?」
パブロの戦闘には、毎回テーマがある。それは、飽くなき自己研鑽と新しいアイデアを生み出し続けるための彼の習慣だった。そして、この厨時代に存在するモンスターの大部分をデザインしている彼を信仰するプレイヤーたちにとっては、周知の事実だった。
「一波目は、様子見も兼ねた、物量でのゴリ押し。二波目は、超高耐久による圧殺。そして、戦いの中で、彼らには大した遠距離攻撃が無いと分かったから、三波目は、遠距離からの魔法による袋叩きだよ。まあ、三波目はちゃんと見れなかったけどね」
パブロは、熱を込めてそう答えた。趣味を仕事にしている男が持つ、冷めえぬ興奮がそこにあった。
「ルーキー相手に弱い者いじめですか。流石ですね」
竹平は、パブロの大人気の無い研究者魂に敬意と呆れが混じった応えを返した。
「ありがとう」
パブロは、誇らしげにそう答えた。
「皮肉ですよ」
「大丈夫。加減はしてあるから」
「いや、そういう問題じゃないと思うんですが」
いつもやり方がえげつないんだよな、この人、と思いながら、パブロの開き直りに、竹平は質問を変えた。
「それでは、次に、闘ってみての感想は?」
「最近の若い子はやるね! 久しぶりに熱くなったよ」
パブロの目が輝いている。
「あの二人は化けるよ」
そして、確信したように、そう続けた。
「生半可な冒険者なら一波目で詰む。まさか、コンビネーションだけでここまでやられるとは思っていなかった。相当練りこまれているよ。次のテーマは対コンビネーションかな。いやはや、いい勉強になった」
話もたけなわになってきた頃、パブロと竹平の間に、ある二人の人物が割って入った。
「おい、パブロ。こんなところで何をやっている」
「モーション技師の暁さん」
竹平が意外そうな顔をする。
暁は、パブロの背中をバンバン叩いた。
「暁、二人の話の邪魔をしないの」
暁をたしなめたのは、暁の後ろにいた優美な着物に身を包んだ女性だった。
「服飾屋のメイリアさん」
竹平は、この世界で名の知られた三人に会えたことで、少しお得な気持になった。
「駄目じゃないか、パブロ。勝手に仕事を抜け出して」
「あはは、これも仕事だよ。それに僕は現場主義なんだ。それに君たちもいるじゃないか」
「私たちはこれから仕事なのよ」
そんな話をしている最中、決勝戦に向けてユータとセリカがやってきた。
「おっと、主役が来たようだ」
竹平がカメラを構える。
パブロは、セリカのハナコを見て、感嘆した。
「ほう、もう猛火竜に進化させたか。しかも、相当なエネルギーが溜まっているようだね。次の進化までもう少しかな。無理な強化は身を滅ぼすよ。お嬢ちゃん。そいつは無駄に魔力を食う」
パブロがセリカに忠告する。
「あの、どこかでお会いしましたか?」
セリカが見知らぬ男にまくしたてられ、戸惑う。
「おまえは!」
ユータがリドルを指さし、叫んだ。
「げっ」
リドルが心底嫌そうな顔をする。
「どうかしたかい?」
パブロが不思議そうな顔をする。
「こいつ、モンスターを召喚できるからって、街のみんなに迷惑をかけてたんです」
パブロがリドルを見る。リドルは、パブロの腕の中から抜け出し、今にも逃げようとしていた。
「お前、そんなことをやっていたのか」
「えへへ」
リドルが申し訳なさそうに笑う。
「後で、お
パブロがリドルの頭を
「助けてー」
リドルは必死の思いで足掻くが、抵抗むなしく、そのまま宙ぶらりんの状態になった。
「それじゃあ、そろそろ退散するわ。じゃあね」
パブロは、リドルを掴んで出口へと歩いて行った。
今まで、考え込んでいたセリカがハッとした顔でユータを見た。
「思い出した。あの人、私にハナコをくれた人だ」
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