第11話 合体技

 準決勝第二試合。ジャイロとハイド対黒いモンスター召喚士たちの戦いが始まった。モンスター召喚士たちはジャイロたちを物量で攻めたが、ジャイロたちは息の合ったコンビネーションにより、難なく突破。続いてモンスター召喚士たちがジャイロたちに放ったのは、巨大なサイの戦士たちだった。


「どうしようかハイド」


「プランBだ」


 二人は、お互いの武器を交換した。


「おっと、ジャイロ選手たちが武器を交換しました」


「ほう、いったい何を見せてくれるのかね」


 黒フードの男は口角をあげ、好奇心に目を輝かせた。


「一点突破だ」


 ジャイロは高く飛び上がり、体を捻らせると、双剣をお互いにこすり合わせた。


刃打やいばうち』


 ジャイロの右手には水の力が宿る短剣、アイランドダガー、左手には炎の力が宿る小剣、サンセットソードが握られている。二つの相反する力は、おたがいに作用しあうことで、爆発的な推進力を生み出した。


爆炎輪転刃イクリプスローラー


 上空高い位置からきりもみ式で対象に突撃する攻撃は、炎と水の力を放出しながら螺旋らせんを描く。ジャイロはライノスアーミー目がけて一直線に飛翔した。

 今までとは違った立体的で迫力のある攻防に、会場が湧く。

 ハイドはジャイロが辿り着く前に、ライノスアーミーの元へ近づき、斧を振りかぶった。


限界斧操マージナル・アクス


 自身の限界を超えて繰り出される神速の乱打は、頑強なハイドとはいえ、自身の体をどんどん壊していく。しかし、ハイドの持つ精霊の斧が、相手を斬りつけるたびに、ハイド自身を癒していく。この武器だからこそできる、ハイドの戦術。

 ハイドの力強い攻撃を見て、会場の声援がより一層迫力を増す。

 二人は、一心不乱に一体のライノスアーミーに攻撃を与え続けた。


「これは! ジャイロ選手とハイド選手。武器を交換したことで、先ほどとは戦術をがらりと変えてきました!囲まれてしまう前に、一点突破を狙って相手の隙を作る戦術のようです! 」


「試合開始直後に見せた、守り重視の時は、動きの少なく、無理のない戦術で。今のような、攻め重視の時は、ジャイロ選手は、立体的な機動力。ハイド選手は、強靭さを活かした爆発力で攻めて行けるんですね」


「しかも、一回戦の時から守り重視で戦ってきたのは、おそらくこの攻めの連携を対策されないため。対戦相手の実力を見て、ここぞという時に出してきましたね」


 そうしている間にも、ライノスアーミーたちが残す隙間が少なくなってくる。ついにライノスアーミーは、轟音とともに二人をすり潰した。


「おーっと、ジャイロ選手とハイド選手、間に合わなかった!」


 会場からは、落胆の声があがる。


「潰れたか」


 辺りには、砂煙が巻き起こる。

 黒フードの男は視界が悪い中、ジャイロとハイドが今まで居たであろう一点を凝視している。


「油断するなよ、おっさん」


 ジャイロの双剣が、黒いローブの男の首元を掠める。だが、男は涼しい顔でそれをかわした。


「何と! 間一髪、モンスターに囲まれる前に脱出していた!」


 会場が、安堵あんどの歓声をあげる。


「いや、驚いたよ。まさか私の戦略が破られるとはね」


 黒いローブの男は二人を見据える。


「そうか、攻撃してできた、ライノスアーミーの隙間から抜けてきたか。確かにそれなら倒しきれなくても攻略できる」


 男は、感嘆し、笑った。


「だが、先ほどの戦いで、。次は、攻略できるかな?」


 再び、男は二人と距離を取り、魔法陣を描く。


『上級魔物召喚【レッドローブ】【ブルーローブ】』


 男が召喚したのは、上級モンスターの中でも特に魔力の高い赤と青の魔術師兄弟。


「おっと、黒フードが召喚したのは、魔法使いのモンスターだ!」


「これはまずいですよ。私が見る限り、ジャイロ選手たちには遠距離攻撃が見当たりませんでしたからね。このままだと、一方的に魔法で嬲られます」


 会場は、先ほどから容赦のない黒フードの男の戦術に、ブーイングを飛ばした。


「まずいな、ジャイロ」


「そうだな、ハイド。俺たちの苦手な遠距離で攻めてくるつもりだ」


「あれを使うか」


「奥の手か」


 二人は、また武器を交換した。


「「いくぞ」」


限界剣術マージナルソード&刃打ち』


『軽業&たたけ』


 ハイドは、限界剣術で強化した攻撃速度で、両手の武器を打ち合わせる。ジャイロは、斧を高く掲げ、何度も何度も、地面をぶっ叩いた。


「おおっと、ジャイロ選手たちは一体どうしたのか! 」


「普通なら、意味のない行動なんですけどね。二人は狙ってやっている雰囲気でした」


「あんな斧でぶっ叩くだけの隙だらけの技、しかも、誰もいないところに向かって! もう一方は何度も何度も自分の武器を打ち付けているし! あいつら、もう自棄やけになったんですかね?  師匠!」


 黒フードの小さい方は、奇妙なものを見るように、眼を開いている。


「面白いな。どう打開するのか見てみたくなってきたよ」


 大きい方は、赤と青の魔術師に攻撃を命令した。

 赤と青の魔術師たちは、手元に炎の球体を発動させる。空間が赤と青の炎で焼かれ、焦げ臭い匂いを放つ。


 ジャイロたちは、動きを止めた。


「こっちはオッケーだ」


 ジャイロが斧を打ち付けていた地面は、ひび割れ、大きな岩が隆起している。


「こっちも溜まった」


 ハイドの両手に握られた双剣は、剣同士を打ち付けた際に蓄積されたエネルギーが、今にも爆発しそうな勢いで音をあげている。


「「いくぞ、合体技コンボ・チェイン!」」


 二人は一斉に、崩れた地面に武器を振り下ろす。


間欠泉大地砕きグラウンドゲイザー


 二人が武器を振り下ろすと、地面からは熱いお湯が吹き出し、岩盤が一気にめくりあがる。岩盤は勢いを持ったまま、上空高くまで吹き上がり、そのまま地上の敵めがけて降り注ぐ。


「これは、なんと!間欠泉だ!砕かれた地面が、ハイド選手の双剣に蓄えられた熱湯のエネルギーで、吹き上がりました!」


「いや、いいですね。私、温泉好きなんですよ」


「……カエデさん。仕事中ですよ」


 小さな方の黒いローブ、そして、赤と青の魔術師はそれぞれ降ってきた岩盤の下敷きになった。


「よし! 取り巻きは戦闘不能にした!」


「くそっ、リドルがやられたか」


 黒いローブの男は、二人の岩盤からは身を躱していたが、激しい動きをしたせいか、フードが外れていた。


「無傷だと――」


 黒いローブの男は、ジャイロたちの攻撃を受けたにもかかわらず、何もなかったかのように綺麗なままだった。そして、見覚えのある頭に、観客席から声が上がる。


「あの人、パブロじゃない? 初心者向けの大会に何であの人来てるんだろうね」


「ほんとだーパブロだーこっち見てー」


「やっべ」


「え? 」


「逃げるぜ。また今度な――審判! 俺らは棄権だ」

「そして、ありがとう! とてもクリエイティヴだ。ジャイロ&ハイド!」


 パブロは、リドルを小脇に抱え、一目散に逃げ出した。


「何と! モンスター召喚士の正体は、モンスター造形師としておなじみ。あのパブロさんでした。パブロさん棄権ということで、ジャイロ、ハイドチームが決勝進出です!」


 会場は煮え切らぬ展開に、一時、どよめきが起こったが、それでもパブロを倒した若き戦士たちの健闘を称え、盛大な拍手に包まれた。


 ――これで、八つあったチームは二つに絞られた。ついに、決勝戦である。会場は、期待と興奮に包まれている。

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