第3話 井戸の底の洞窟
僕がこの世界に来てから見た光景は壮絶なものだった。広大な草原、レンガ造りの街、街を守る
僕は、街の傭兵であるヴァイクに武器の使い方を教わり、街を
しかし、草原の真ん中にあるのは、古びてレンガが
井戸の中には一本のロープが頼りなさげに下りている。僕は、意を決して井戸の底に降りることにした。
井戸の中は、
元々は、何か
僕はこういうのはあまり得意ではないので、最初の骸に手を合わせた後は、他の人の骨が出てきても、無視して進むことにした。それにしても、こんな環境にある水を、この井戸を造った人たちは飲んでいたのだろうか。
水は、深いところでは、膝が浸かるくらいまで水位がある。ただ、幸いにも、水に流れは無いようで、足が取られることはないが、
また、足が取られないといっても、この不安定な足場でモンスターと闘うのは、相当な労力が覚悟された。幸い、途中で見たことない
途中までは、入り口から入ってくる明かりで、微かに視野を確保できていたものの、ここから先は、真っ暗闇というところまで進んできた。
もし、ここでモンスターに襲われれば、上手く対処できる自信がない。暗闇では、モンスターが出ないように、祈るしかなかった。
しかし、洞窟の中では、そんな祈りも
次襲われると、どうなるか分からない。一旦引き返した方がよいのだろうか。
天井から滴ってくる水滴を顔に受けながら、恐怖に耐え、暗く狭い坑道を進むと、道の先に
道は二手に分かれていて、一方は松明が設置されており、もう一方の道は暗闇に沈んでいる。僕は、迷うことなく、松明の明かりが灯っている道を選んだ。
松明八本分進んだところで、少し広いところに出た。わずかながら、水に浸食されていない地面もある。その濡れていない地面で、黒い影が動いた。
犯人かと身構えた際に、布ずれの音が聞こえたのだろう。黒い影は、こちらに気づいたかのように、身を
「誰だ」
僕がそう叫ぶと、黒い影はこちらの様子を伺うように、おずおずと顔を向けた。
「びっくりした。君も探検家? 」
黒い影はこちらを探るように、フードの奥に光る二つの眼で僕の顔を
「僕はユータ。人を探している。君は何者なんだ」
「こんにちは。僕は探検家のリドル。お宝を探しにこの井戸の中に来たんだけど、道に迷っちゃたんだ」
リドルは、手に持ったランタンを下に置き、
「こんなところにお宝があるのか? 」
「分からないけど、それを探すのが探検家なんだ」
リドルの声が、力を帯びる。何か、熱のこもった話し方をするやつだと思った。
「そうか、じゃあ、このあたりでおかしなやつ見なかったか? 街にモンスターをけしかけている犯人がここにいるらしいんだが」
「いや、見てないな。そういった輩は、洞窟のもっと奥の方にいるんじゃないかな」
声の様子から察するに、リドルは、本当に知らなさそうだった。
リドルは、僕をまじまじと見つめる。初心者だと理解したらしく、どうやら緊張が解けたようだ。
「そういえば、君は初心者のようだね。向こうでこのポーションを見つけたからあげるよ」
リドルは、服の中からポーションを取り出した。
「おお、悪いな」
僕はリドルからポーションを受け取ろうとする。
「あっ、手が滑った」
手が濡れていたのだろう。リドルの手からポーションの瓶が滑り落ち、水の中へと落ちた。
リドルの手から落ちたポーションの瓶は、緩やかな水の流れに従って、下流に流れていく。
リドルはどうしたものかと考えあぐねている。
「僕が取ってくるよ」
僕は水をかき分け下流まで歩いて行き、水に落ちたポーションを拾う。
「ありがとう、助かるよ。フフッ」
後ろから、リドルの声が聞こえる。
振り返り、リドルの方へ向き直ると、リドルは壁に手をついていた。
ポチッ。リドルが何か押したような音がした。
ざざあ、ざざあ――。
最初は、耳鳴りかと思った。
いや、これは耳鳴りではない。
洞窟の奥から轟音が聞こえる。
音は次第に大きくなっていき、辺りの岩の隙間から聞こえてくる。
岩の隙間から噴出したのは、大量の水だった。足元の水量は、すごい勢いで水かさが増していく。さらに、緩やかだった流れも、気づいた時には足が取られるほどに勢いを増していた。
「うひゃひゃひゃひゃ、騙されたな! モンスターを街へけしかけたのは俺様だよ。お前みたいなバカは、水で流れてどっか行っちまえ」
リドルは少し高くなった壁にしがみつき、流されないよう必死に耐えている。
洞窟の奥には、底の見えない大きな穴が口を開けている。僕はあっけにとられたまま、洞窟の奥へと流されていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます