第15話 魔法少女セリカたん

 僕たちはジャイロとの死闘の末、闘技大会を優勝した。最後は、僕とジャイロの一騎打ちとなる激戦だった。


「優勝者には、服飾屋のメイリアから、初心者用装備一式と、モーション技師の暁から新モーションをプレゼント!」


 表彰式。闘技場の中心に、僕とセリカ、そして服飾屋と、モーション技師の姿があった。


 暁が僕に近づいてくる。


「ユータ君にはそうだな。刀使いだし、カッコいい着物と、君の運動性能を拡張してあげよう。ちょっと動いてみて」


 僕は、足に力を込め、ジャンプする。今まで、人並みだった脚力が、軽く飛んだだけで三メートルの高さまで届くほど強化されていた。


「すごい。機動力が上がった」


 僕は、その場で反復横跳びをする。


「すごい、ユータが残像で三人に見える」


 セリカが感嘆の声を上げる。


 メイリアさんからもらった着物も、シンプルながらも、ちょうどいい大きさで、丈夫な生地で出来ていた。


「ありがとうございます! 」


 今までぼろぼろの冒険者服を着ていたため、身なりが大分ましになった。


 メイリアは、セリカに装備を渡す。


「はい、セリカちゃんに頼まれていた装備」


 セリカに渡されたのは、漆黒の法衣。ゴシック&ロリータを基調とした優美なもので、背中には、堕天使の羽がついている。


「ありがとうございます」


 セリカは、もらった装備に頬ずりしながら、恍惚の表情を浮かべている。


「セリカが優勝したかった理由ってそれ? 」


「そう。前に、この大会に出る代わりに、私の好きなものをくれるよう交渉したの」


 セリカに暁が近づく。


「そして、今回の試合を見て、セリカ君は魔力量の制御ができていないと見た! というわけで、君が竜の魔力を自由に使えるこの技をサービスしちゃおう」


 暁は、指をパチンとする。セリカの服が、いきなりはじけ飛んだ。


「嫌ァァァァ――?!」


 いきなりの事態に、セリカが絶叫する。服がはじけ飛んだことで、見えちゃいけないものが見えちゃうような気がしたが、謎の光がセリカを包み、気のせいに終わった。やれやれ――。


 ハナコが光の粒子に分解され、セリカの中に入っていく。気が付くと、セリカの衣装が変わっていた。

 どことなく、竜の意匠をイメージさせる、メイド服をモチーフにした衣装。手には、魔法のステッキを握っている。ちなみに、僕はアリだと思う。


「これぞ、私が生み出した魔法少女ロマン憑竜装リリカル・ドレスアップ。魔法少女セリカたん!」


 暁の後頭部を、セリカとメイリアの打撃が襲う。暁は、その場で悶絶した。


「何だ、このだっさいの! 嫌だ! 絶対着たくない!」


 暁が用意した憑竜装ロマンは、セリカのお気には召さなかったようで、セリカの言葉がとどめとなり、暁は、その場で胸を押さえて息絶えた。


「あの、ってなんですか?」

 先ほどから、HGS行書体でセリカの頭上に出ているものがやけに気になったので暁に聞いてみた。


「ああ、それは、私のモーションを広めてもらう為の宣伝みたいなものでね、カッコいいあだ名をつけてみたんだ。素敵でしょう?」


汚名オメーは消えろ」


「うっ」


 死体蹴りだ。セリカの言葉で、暁の遺体は灰になった。

 しかし、この時付けられたあだ名が、セリカの業績とともに、暁の名を後の世に広く知れ渡らせることになろうとは、この時は誰も想像していない。


「暁が、迷惑をかけたわね」


 メイリアが困った顔をして、セリカの肩に手を置く。


「セリカちゃんは、後で私の部屋に来て。その装備の使い方を、お姉さんが手取り足取り教えてあげるから」


 先ほどの件で、暁は駄目な人だと思ったが、もしかしたら、メイリアも駄目かもしれないと思った。メイリアの口からよだれが出ている。


「そういえば、いまさらこんなことを聞くのもなんですが、服飾屋とモーション技師って何なんですか?」


「そうね。服飾屋は、人にあった装備を作ることで、装備した人の魅力と能力を引き出すことが出来るって感じかな」


「君たちは、主観的に技を作るとして、思ったように技を作ることはできるかい?モーション技師は、その人の本質を見極め、第三者の視点から、使いやすく、強力な魅せる技を作るのが仕事だな」


「もっと深い部分で言うと、性能と美しさを追求するのが服飾屋の仕事で」


「効率と、格好よさを追及するのがモーション技師の仕事だ」


 二人ともしたり顔だ。


「なるほど」


 つまり、彼らの力を借りれば、出来ることを増やすことも、自分の能力を引き出すことも可能ということか。


 僕が納得していると、後ろから声がした。


「おーい、ユータ!」


「リヒトマンさん! ヴァイクさんも!」


 リヒトマンとヴァイクが笑顔で走ってきた。


「優勝したか!おめでとう! 」


「ありがとうございます! 」


「いやー、初めてリヒトマンと手を合わせた時はどうなることかと思ったんだがなぁ」


 ヴァイクが、僕の頭を大きな手でワシャワシャする。


「そういえば、リヒトマンは何の用で来たんだ?」


 暁が不思議そうな顔をする。


「そうだった。ユータのファンが渡してくれって」


 リヒトマンは、僕に不思議な小包を渡した。中を開けてみると、紋章の描かれた石と、手紙が入っている。


「これは、移動石と、手紙か」


 リヒトマンによると、この石を使うことで、紋章に描かれている場所に移動できる魔法石の一種らしい。


「手紙には何て?」


 セリカがこちらを覗く。


「うん。ええと」


 手紙には、優勝への賛辞と、僕を星降りの丘で待つというような内容が書かれていた。


「星降りの丘」


「ああ、エストマルシェから北の大陸。夜王が治める常夜の国トワイライトの近くか。あそこは、一年中星が降ると言われている。行けば、何かわかるかもな」


「セリカは行かないの? 」


「行かないわよ。あんたに用があるんでしょ? 」


「じゃあ、行ってきます」


 石を触ると、石から青白い光が漏れだした。


「またね――」


 セリカが、手を振る。

 青白い光が、僕の体を包んでいく。僕の視界が、淡く歪んでいく。


「悠太君」


 世界は白に包まれた。

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