第33話 ソウル・コントラクト
リヒトマンが一番目の巨神を倒し、戦場が歓喜の声で沸き立っている頃、ユータたちも五番目の巨神と戦っていた。
五番目の巨神は桃太郎の姿をしており、巨大な刀を振り回し、邪魔者を排除してくる。
ユータたち五番隊は、不足の無い相手に、武者震いをした。
五番隊は経験の少ないルーキーばかりだが、怖いもの知らずで、血気盛んなものも多く、他の隊に比べて随一の勢いを持っていた。
桃太郎の巨神は五番隊目掛けて、地面を揺らしながら走ってきた。
我慢しきれなくなったのか、五番隊の中でも実力者のジャイロとハイドが前に出る。
「久しぶりだな、ハイド」
「ああ、ジャイロも相当鍛えたみたいだな」
お互い長い間、個別に自己研さんを積んできたこともあり、ジャイロとハイドはライバルがどれだけ成長したのかとワクワクしている。
桃太郎の巨神は目の前に現れたジャイロたちに向かって、刀を振り下ろした。
「さあ来い! 俺の本気を見せてやるよ!」
ジャイロが吼える。
『
ジャイロはバクにやられてからも修行とファンの獲得をおろそかにしていなかった。今現在、ジャイロのユニークユーザー数は二千人を超えている。
ジャイロが合図すると、全国のジャイロのファンたちから、
『
次にハイドが全身に力を込める。すると、ハイドの全身から深い青色をした毛が生え、見る間に二回りほど大きい狼男に変身した。
ハイドは巨大な斧を構える。
桃太郎の巨神の刀が二人を襲う。
ジャイロは翼。ハイドは斧で巨神の刀を受け止めた。
巨神は一度刀を引くと、再びジャイロたちに向かって刀を振り下ろす。今度は二人を薙ぐように、水平に刀を走らせる。
ジャイロたちはその刀をひらりと避け、ジャイロは空から、ハイドは地上からそれぞれ洗練された動きで巨神に攻撃を加えていく。
ジャイロたちの奮闘を見た五番隊のルーキーたちは各々が武器を取り、ジャイロたちに続いた。
「よし、僕も――」
ユータは、ひのきの棒に力を込める。
「
ユータがどれだけ技名を叫んでも、ひのきの棒が刀に変わることはなかった。今度は全身に力を入れるが、もちろん、
「バクに力を奪われて、技自体が発動しなくなっている――」
『
ユータが横を見ると、セリカが煌焔竜のハナコを召喚していた。
「乗って」
ユータとセリカはハナコに掴まり、空高くまで舞い上がった。
その直後、ユータたちのいたところに巨神の刀が振り下ろされる。間一髪、二人は
五番隊の面々が次々と向かってくることに、
『
巨神が技を発動すると、巨神の刀に紫の力が迸り、辺りを
五番隊の面々が巨神を注視していると、巨神の刀が消えた――次の瞬間、五番隊の視角外から巨神の刀が飛んできて、五番隊のほとんどにクリーンヒットした。さらに、刀が当たったプレイヤーは、エストマルシェの方角へ、すごい速さで飛んで行った。
五番隊の面々は、巨神の攻撃によって、次々とエストマルシェへ送り返されていく。
そんな中、巨神の刀がリドルを襲う。リドルは刀に向かって盾となるモンスターを出したが、意味をなさずに他のプレイヤー共々、あっけなくお空の星となった。
セリカはハナコをうまく操縦し、巨神の攻撃を次々と
一方、ジャイロとハイドは最前線でギリギリまで耐えていたが、ついにジャイロたちもエストマルシェへと飛ばされてしまった。
ついに、五番隊で残ったのは、ユータとセリカだけになった。
「さっきから巨神の顔に魔法を撃ちこみ続けているけど、効いている気配が全くない――」
セリカが爪を噛む。
「僕も戦闘に参加できればいいけど、武器も技もバクに獲られているし……」
ユータが思いあぐねていると、セリカが何かを思いついたように声を上げた。
「私にいい考えがある――」
ユータはセリカの顔を見た。
「ユータ、私の血を飲みなさい」
「血を飲むって――」
「いいから!」
セリカは自分の舌を噛んだ。セリカの口からツッーと血が垂れる。
ユータは、セリカの行動が理解できず、目を白黒させる。と、次の瞬間、ユータの口の中に、ねっとりとした感触と、鉄の味が広がる。
セリカは、ユータの口に舌を入れ、そのまま絡ませていた。
少しの間、上空五十メートルに、ぺちゃぺちゃと水音が響き渡る。
セリカは、ユータが自分の血を飲んだことを確認すると、ユータの口から自分の唇を離した。ユータとセリカの間には、二人の唾液で橋が出来る。
「私は闘技大会の時、ユータの血を飲んでいる。この魔法は、二人の血を媒介に発動する」
『血の魔力・解放』
セリカの身体から、漆黒の瘴気が漏れ、セリカの中の魔力量が増大していく。
「私たちセリカとユータは、血を共有し、命脈の元に誓う」
「今、血の媒介者ユータに、私のすべてを捧げる!」
『
ユータとセリカは赤い魔法陣に包まれ、キラキラと輝きだした。
「セリカ! いったい何をっ!」
ユータが叫ぶ。
巨神は、空中に留まっている二人に、とどめを刺そうと刀を振り下ろす。
セリカは、ユータの問いかけに答える。
「――合体よ」
巨神が刀を振り下ろしたとき、不思議なことが起こっていた。
そこには、ユータとセリカの姿はなく、黒煙の中に、巨神の刀が受け止められていた。
黒煙が晴れる。刀を受けていたのは、常人が持つにはあまりにも巨大な、紅い剣。
『
何と、ユータとセリカは合体し、体長十メートルほどの
紅い体に、竜を模した
竜戦士が、巨神の刀を易々と弾き返すと、巨神はバランスを崩し尻もちをつく。
尻もちをついた巨神に竜戦士が剣を向ける。
「バク、そこにいるんだろ?」
竜戦士は剣で巨神の頭を示したまま、そう呟く。すると、その言葉に応えるように、巨神は邪悪な笑みを見せた。
「僕の鬼の力を奪って、あまつさえエストマルシェを襲おうとするなんて!」
ユータが吼える。
巨神は立ち上がり、刀を竜戦士に向ける。
「「鬼退治だ!」」
ユータとセリカは剣に火の魔力を宿し、一気呵成に畳み掛ける。
『
剣からは炎が噴き出し、巨神の身体を焼いた。
ちょうどそのころ、一番隊から四番隊が四番目の巨神を倒し、五番目の巨神の元までやってきた。そして、巨神に対して優勢をほこっている竜戦士を見て、戦場は歓声に包まれる。
「これでとどめだ――!」
ユータとセリカは炎に包まれる巨神に上段から勢いよく剣を振りかざす。
――が、炎の中から巨神の一太刀が飛び、ユータたちの剣を受け止めた。
「んふふ。ユータ君、流石だ。強いね」
巨神がバクの声を発する。
「バク、お前!」
「気に入ってくれたかな。この巨神、赤林檎が創った者なんだぜ。」
そういうとバクはある歌を口ずさみだした。
「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰につけたキビダンゴ一つ私に下さいな♪」
『
巨神は、腰につけた袋から大きなキビダンゴを取りだし、自分の口へと運ぶ。
巨神がキビダンゴを食べると、五十メートルあった体長が十倍ほどになり、その巨大な手で、竜戦士を掴んだ。
竜戦士はもがいたが、その巨神の手からは抜け出せない。
巨神は、竜戦士をつまみあげると、そのまま口まで持っていき、大きな口で
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