第6話 未熟
モンスター襲撃事件の犯人、リドルを撃退した後、僕はエストマルシェへと帰ってきていた。僕が正門前まで行くと、ヴァイクが出迎えてくれた。
ヴァイクは僕を見るなり肩を叩き、よくやったと称賛した。
正直、ここまで褒めてくれるとは思わなかったので、照れ臭かった。
僕が犯人を取り逃がしたものの、あれ以来、街へのモンスターの襲撃は無くなったらしい。僕の功績を仲間に紹介したいと、この街を取り仕切っているリヒトマンという人に会わせてくれることになった。
リヒトマンに会いに行く途中、ヴァイクにこの街を案内してもらった。お腹も減っていたので、ヴァイクに奢ってもらった味噌おでんを頬張りながら、街の通りを歩いた。エストマルシェは店の街と言われるだけあり、雑貨屋から武器屋、いい匂いのする屋台まで、
中でも、魔法石を売っている魔法屋は、この街で一番繁盛している店らしい。
魔法石には、様々な種類の魔力が込められており、込められている魔力によって魔法石の色も変わる。それを、用途によって使い分けるらしい。例えば、料理の火として使える火の魔法石や、武器に埋め込むと切れ味が鋭くなる斬の魔法石。雷の魔法石なんかは電気治療にも使えるなど、人々の発想によって、魔法石は多様な価値を持つ。
街の案内も粗方終わったので、僕たちはこの街の中心地へ向かった。
中央ギルド。ここは街の人たちの憩いの場でもあり、冒険者たちの出会いの場にもなっている。毎日人々の笑い声が聞こえるが、ヴァイクによると、今日はいつも以上に騒がしいらしい。その喧騒の中心に、リヒトマンはいた。
「よう、リヒトマン。連れてきたぜ」
ヴァイクがリヒトマンに僕を紹介すると、リヒトマンは仕事の手をやめ、すぐさま握手を求めてきた。
「君か! 犯人を懲らしめてくれたのは! ありがとう、助かったよ」
リヒトマンの賞賛に、周りの人たちも湧き上がる。人生においてここまで人に喜ばれたのは初めてだ。
「おい、ユータ。顔がにやけてるぞ」
ヴァイクが冷やかしたので、少し冷静になった。
ギルドの屋内に眼をやると、リヒトマンの後ろに、巨大な神輿のようなものがある。神輿には勇ましい顔をした荒武者が、何か強大なモンスターと対峙している絵が描かれている。
「これは? 」
「これは祭りで使う
僕が山車を指さすと、リヒトマンは親切に教えてくれた。しかし、リヒトマンが祭りについて熱く語り出そうとしたところで、
「おい、リヒトマン。街の英雄に、祭りの手伝いをさせるつもりか?」
リヒトマンの暴走を止めるため、ヴァイクが冷やかした。
「そうだな、ヴァイク。祭りの手伝いもしてほしいところなんだが……」
リヒトマンは、自重の咳をした。
「今、暇な人を探しているんだ。これから、闘技大会が開かれるんだけど、もしよかったら出てみないか?」
「闘技大会?」
「エストマルシェが出来てから、約半年。ようやく大きな闘技場が完成したんだ。オープン記念に、厨時代を始めたばかりのルーキーたちを集めて腕自慢をしようと思ってね。オープニングセレモニーとしてはぴったりだろう?」
厨時代――。ということは、今、僕はゲームの中にいるのか?
僕は頭を抱える。え、どういう状況なんだ?
ゲームなら、ログアウトが出来るはず――って、何故か出来ない!?
「どうした?」
僕がうんうん唸っているのを見て、ヴァイクが怪訝そうな顔をする。
「あの、僕、実はテロリストに襲われて、その、いつの間にかこの世界に来ちゃった……みたいな?」
僕の発言にヴァイクとリヒトマンは顔を見合わせた後、二人してガッハッハと僕を笑った。
二人によって、僕の発言は面白いジョークとしてうやむやになり、結局、僕は闘技大会に出ることになった。
闘技大会に出る前に、リヒトマンが僕の腕を見てくれるらしい。リヒトマンに手合せをしてもらうことになった。
僕とリヒトマンはギルドの外に出た。ギルドの前は、少し広いスペースがあり、周りは面白いもの見たさの観客であふれかえっている。
「さあユータ君、手加減はいらないよ。君の技を見せてくれ!」
相手はヴァイクと同じ中年。しかも、ヴァイクより一回り小さい中肉中背の男だ。おそらくいくらか
僕は、ひのきの棒を構える。
『
「へえ、君は刀を使うのか」
リヒトマンが鞘から剣を抜いた。
「リヒトマンさん。行きますよ」
リヒトマンは僕の実力を知らない。で、あれば一気に畳みかけるのが吉。まずは懐に潜り込んで、連撃を浴びせる。
『
僕はリヒトマンに詰め寄り、抜刀する。そしてそのまま何度か力を込めて刀を振るった。しかし、僕が振るった刀は、すべてリヒトマンに軽いステップで避けられてしまった。
リヒトマンは僕から距離をとる。
『
リヒトマンが大きく後ろに離れたところで、次の技を放つ。刀を振り、剣圧がリヒトマンをとらえる。が、それすらもあっさりとリヒトマンの剣で弾かれてしまった。
「一刀のもとに駆け抜けるッ!」
『凛・
リヒトマンが身構えたように見えた。僕は、刀を抜き放とうとした。
しかし、必殺の一刀を繰り出そうとした刹那、僕の頭が理解してしまった。僕の技はすべてリヒトマンに見切られている。
刀の勢いを止めることが出来ず、そのまま振り抜く。
「何だ、全部同じ技じゃないか」
「え?」
『
リヒトマンは僕の剣筋に合わせて、攻撃を跳ね返した。こちらの態勢が大きく崩される。
「攻撃を返された――」
「いいかい、技というのはね」
リヒトマンは追撃の構えをとる。
『
「状況に合わせて使い分けるんだよ」
リヒトマンは、剣で地面を抉り、大地を隆起させ、その勢いで僕の体を宙に浮かせる。
『
僕の浮いた体をリヒトマンは地面に叩き付けるように剣の腹で薙いだ。
僕は、背中を地面にしたたかに打ち付けた。
「勝負あり。勝者、リヒトマン」
「君の技は、ただ剣を振り回しているだけ。もはや技とは言えない。ヴァイクから君が襲撃事件を解決したことを聞いた時、もしかして君は強すぎるんじゃないかと思ったがそんなことはなかった」
リヒトマンが少し残念そうに呟く。僕の完敗だった。
「闘技大会には、ルーキーとはいえ、君より強い奴がごろごろいる。思う存分、鍛えてくるといいよ」
リヒトマンに見送られ、僕は背中をさすりながら闘技場への階段を下りる。
次は闘技大会。僕はついに、この世界に来て初めての大舞台へと上がろうとしている。
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