エピローグ

 授業開始の鐘が鳴る。


 今日の授業は魔道具理論講習だ。魔道具の成り立ちや仕組みを勉強する授業だが、オレは小難しい座学よりも、実際に作る方が好きだ。


 一か月前にエストマルシェが破壊され、多くの人が、街の西にあるこの寺子屋に流れてきた。

 エストマルシェが破壊される前は、ヴェスタル校長とナルミ先生、後は数人の人間が住む小さな村、というより森だったらしい。ナルミ先生がこの森に来てから、魔法石の鉱脈があることが分かり、魔道具を作る技術者や、魔法石目当ての商人たちが多く訪れるようになった。

 それだけではない。商人たちによって有名な魔女であるヴェスタル校長の噂が周辺国に知れ渡り、ヴェスタル校長にご教授願おうと、全国各地から魔法使い志望者がどっと集まるようになった。


 そういう人たちのために学校を作る需要が出来たから、今から一か月前に簡易的ではあるけどこの学校が出来た。


 今は即席で作った、ほったて小屋みたいな教室だけど、ヴェスタル校長と、ナルミ先生は、講師の補充と教育・研究施設の増設を含めた、総合学園都市計画、エリュシオンバレー構想とやらを考えているらしい。それも、ユータの脅威に対抗するためだそうだ。だから、近々、この教室も新しくなるらしい。


 まあ、別に教室がでかくなるとか大層な名前の計画とかはどうでもいいんだ。オレが気になっているのはナルミ先生。厳しいけど、ちょっかい出してもちゃんと返してくれるからいい先生だと思う。


 そんなナルミ先生は、大事な人の帰りを待っているらしいけど、この前「男ですか?」って聞いたら殴られた。何でも、生き別れた二人の家族を待ってるって。


家族とは、エストマルシェの爆発があった後、連絡も途絶えたらしい。連絡がないっていうことは、そういうことなんじゃないかと思うけど、ナルミ先生のあの顔を見たら、何も言えないよな。


「ユータって最悪だよね」


「ねー」


 オレの隣の席の女子たちは、世間話をしている。今、クラスの話題は、もっぱら大悪党ユータについてだ。あいつがいつオレらのところに来るか、みんな不安でたまらないようだ。


 そうこうしているうちに、ナルミ先生が教室に入ってきた。

 ナルミ先生は教壇に立つと、みんなの顔を見て、話し始めた。


「今朝、また一つ、街が征服されたようだ」


 教室中の空気が、ざわつき始める。そりゃそうだ。これで、ユータの手に落ちた街は十に昇る。ユータは、大きな街から順に破壊しているらしかった。


「私たちも、ユータに殺されちゃうんですか?」


「大丈夫だ。私たちは君たちの居場所を守る。だから、安心して勉強してくれ。そして、早く、人を助ける発明ができる様な人材になってほしい」


 クラスの女子が怯えるのを、ナルミ先生は優しく諭して落ち着かせる。

 クラスのざわつきも落ち着き、ナルミ先生が授業を始めようと、教科書を開いた。


 その時、オレの腕時計型情報端末が鳴った。

 その瞬間、ナルミ先生から白いチョークがオレの頭に飛んでくる。


「おい! カムナ、お前また授業中に動画見てたんだろう! 今日という今日は没収だぞ――」


「わわっ! 違うって先生! コイツが勝手に!」


 俺は必死に腕に着けられている情報端末をアピールするが、ナルミ先生は激おこだ。

 ヤバい、またナルミ先生のお説教だ。それにしても、先生のチョークは的確な命中精度でオレの眉間に当たる。オレの額は、内出血の赤と、チョークの白で少し感じになった。

 再び、オレの情報端末が鳴った。

 ナルミ先生は、二つ目のチョークを取り、構える。


【緊急速報】


突然のニュースに、教室の誰かがヤジを飛ばす。オレの端末からは、ニュース内容を映し出すホログラムが現れる。


 オレは、ナルミ先生からチョークが飛んでくると思い、目を伏せ、腕で顔をガードしたが、何も飛んでこない。オレは、腕の隙間からナルミ先生を見た。

 ナルミ先生は、ニュースの画面を見ていた。ナルミ先生の手からチョークが落ちる。チョークは教室の床に当たった後、二つの大きな破片に分かれ、粉々になった。


【緊急速報:世界征服を企むユータによって凍結されていた常夏の国ココナツ・オーシャンの奪還に成功。国を救った英雄は、名も告げずに同国を後にした――。現在、二人の英雄を捜索中。特徴は、右腕が義手の刀使いと、竜使いの魔法少女――】

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