第42話 ブチ切れの結末

(…足を切断するだとぉ… !! )

 私はしばらく呆然としていましたが、ふっ ! と我に返りました。

「…先生、いきなり足を切断すると言われても、それは簡単にハイ分かりました!とはいきませんよ!…他に方法は無いんですか?」

 私は必死になって訴えましたが、それから後は結局のところ、医師との押し問答になりました。

「…増殖性の腫瘍ですから、しかも悪性です!少しでも腫瘍の細胞が残っていると、また増殖して再発しますよ!」

「しかし、足を切断したら猫も動けなくなるし、私たちの生活もそのために変えなきゃならなくなります!…だから例えばとりあえず足は切断せずに、今腫れてる部分だけ出来るだけ切除摘出の手術ってことでお願いできませんか?」

 私の訴えに2人の医師は互いに顔を見合わせましたが、かぶりを振って言いました。

「…今申し上げた通り、それでは切除が充分とは言えません、またすぐに腫れが肥大化して無駄なことになります!…私たちは無駄な手術をする訳にはいきません。猫ちゃんのためには切断するしか無いと思いますよ!」

「…でもまずは足を切らずにやってみてもらって、もしまた再発して肥大化しちゃったら、その時は私たちも納得して切断手術ってことにしたいんですけど…!」

「…無駄な手術をすれば、それだけ余計にみーぽん君の身体にダメージを与えることになります!…医師として、マイナスにしかならない処置は頼まれたからと言って受け付けることは出来ませんね!」

 …ラチのあかない話に私はだんだんイラついて来て、

「…要するに、足を切断する条件でないと処置はしない、ということですね?」

 と言うと、医師は

「足を一本切断したって、犬も猫も器用に歩きますよ!」

 と言いました。

 その瞬間、私の頭の中でプチッ ! と音がして、一気に気持ちが逆流するのを強烈に感じました。

「分かりました!」

 私はマキの方を向いて言いました。

「もうサッサと会計して帰るぞ!」

 医師たちは突然の私の言葉に驚き、慌てた様子で、

「待って下さい!処置はしなくていいんですか?早くに手術しないと…」

 と言って止めるのを、

「もうあなた方には関係の無いことだ!」

 と拒否して、みにゃんを抱いて私は建物の外にステステ歩いて出て行きました。

 そしてひと足早く車に乗り込み、会計を済まして来たマキを拾って素早く発進させました。

「…あなた、みーちゃんをどうするつもりなの?…私、みーちゃんの命に関わることならば足を失っても…」

 助手席でマキが弱音を吐くのを私は、

「3本足で辛そうに歩くみにゃんを毎日泣きながら眺めるつもりか !? 」

 と制してアクセルを踏み込み、スピードを上げて高度治療センターを離れて行ったのです。


 …そしてその週末、私たちはみにゃんを連れて再び市内のいつもの動物病院に行きました。

「…という訳で、せっかく紹介してもらった高度治療センターですが、結局最後は私が短気を起こして治療を拒否したまま帰って来ちゃいました」

 …先生にあそこでのいきさつを報告して、私たちは今日あらためてこちらで手術をお願いするためにやって来たのです。

「…なるほど、お話は分かりました!…残念ですが、まぁ仕方ありませんね」

 苦笑いしながら先生は頷きました。

「ですので先生 !! 私たちにはもう先生しかお願い出来る人がいません!何とかウチの猫を手術して下さい!」

 私は必死に訴えました。

「足を切断せずに腫瘍だけを切除摘出しろと言うんですね?…しかし増殖性が高く、効果は無いと診断されたんでしょう?…それでも良いんですか?」

「はい、うまく切除出来れば再発しないと私は信じています!…しかしこの手術自体、無理を承知でお願いしてる訳ですから、もし悪い結果が出たとしても先生に決して文句は言いません!とにかく今回だけは私たちの望むようにやってみて下さい!お願いします」

 頭を下げて懸命に頼み込むと、先生は、

「…う~ん」

 としばらく考え込んでしまいました。


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