第13話 旅の後の雷鳴
…次に目覚めて、車内の時計を見ると時刻は夕方6時半を回っていました。
「うひゃ~!ずいぶん寝ちゃったなぁ…!」
上体を起こして周りを見れば、マキも子猫もすやんすやんと眠ったままです。
6月は陽が長いのでまだ景色は明るさを残していましたが、私は少し寝汗をかいて身体がベタついた感じがして、あまり爽やかな目覚めではありませんでした。
…私はマキを起こして2人で温泉「蔵の湯」に行きました。
平屋の建物内は、下駄箱、受付、ロビー、売店、広間兼食堂、そして木目張りの廊下の奥に男女別の浴場というオーソドックスな造りです。
入浴料500円を払って奥に進むと、浴場内は浴槽が広々としていて、お湯も無色透明なクセの無い温泉でとてもリラックスできるものです。
さらに内湯の奥の扉を開ければ岩風呂の露天湯がありました。
…私は露天湯に浸かりながら岩にもたれて、へよ~んとすっかりタレ人間 (ヒトのたれパンダ化) になって寛ぎまくりました。
「やっぱり温泉は良いなぁ…!」
としみじみ感じながら露天風呂から空を見上げれば、夕暮れ空はすっかり明るさを失い、暗くなったところからチラチラと星たちがその数を増やしつつありました。
「おぉっ!プラネタリウム露天湯だぜ…!」
…という訳でゆったりじっくり温泉を楽しみ、ポニャポニャンとお湯から上がった私とマキは、気が付けばすっかりお腹が減っていました。
「…そう言やぁさくらんぼ狩りの後、昼メシも食べてないよ!」
私たちはそう言って苦笑いしつつ車を発進させ、晩御飯を頂くために喜多方の街に向かいました。
…走る車窓から見上げれば、上空はすっかり暗くなり、満天の星が綺麗でした。
…東北の旅行から戻り、週が明ければまた日常生活の始まりです。
月曜日の朝、私は車にみーぽんを乗せて会社に向かいました。
途中、マキの実家の市内の団地に寄ると、お義母さんがすでに建物下の歩道で待っていました。
私は容器入りみーぽんと山形土産のさくらんぼ1パックをお義母さんに手渡します。
「あら、今朝のうーちゃん (マキの実家では猫の名前はうずらちゃんのまま、さらに簡略化されてうーちゃんになった模様) はさくらんぼのオマケ付きなのね!」
お義母さんは笑顔で猫と物を受け取りながら言いました。
「じゃあ夕方までよろしくお願いします」
私がそう言うと、
「この子もだんだん重くなってきたわね!」
お義母さんがみーぽんを見て言いました。
冷やし中華容器の中のみーぽんは、今では身体が容器の4分の3くらいを占める大きさに成長していました。
抱き枕になっているマスコット「亀母さん」に顔を預けて容器いっぱいの状態でお休み中の姿を見せています。
「…もうこの冷やし中華容器も卒業ですね…」
「そうね、ウフフ…!」
私とお義母さんはそう言って笑ったのでした。
…その日の夜、私とマキは仕事を終えて猫を迎えに行った後、そのままホームセンターに買い物に行きました。
中に入ると、私たちはペットコーナーで、みーぽんを入れるためのバスケットと猫用の離乳食を購入しました。
…買い物を済ませて車に乗り込むと、フロントガラスに大粒の雨が急にボタボタと落ちて来ました。
「うわぁ、降って来たね!」
「早く帰ろう!」
2人でそう言って車をスタートさせ、駐車場から道路に出ると雨足はさらに強くなり、ワイパーを最速に切り替えましたが、その瞬間前方に雷光が走りました。
「おぉっ!」
「きゃ~っ !! 」
マキは雷が大嫌いなので、身を縮めて恐怖の叫びを上げました。
一拍おいて、「ガガ~ン!バリバリ !! 」と落雷音が響き渡ります。
「!………」
突然始まった激しい雷鳴と稲光りに、すっかりマキは言葉を失い助手席でビクビク震えています。
チラッと後席のみーぽんを見ると、猫は何と容器のふちに顔を乗っけてへよ~んと寝ていました。
「うへぇ…! なんて奴だ!」
私は半ば感心、半ば呆れて言いました。
…結局、雷鳴は夜半まで止まず、天候はかなりの豪雨となって翌日の午後まで関東エリアに降り続きました。
…ようやく雨が上がった次の日の夜、私たち2人と1匹は市内の江戸川の土手に出掛けて行きました。
興味本位に豪雨による川の増水状況を覗きに行ったのです。
…すると、そこでは私とマキにその後大きなサプライズが起きる結果が待っていたのでした!
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