第14話 サプライズは突然に !?

 …私たちは車を江戸川の土手下に停め、みーぽんを抱いて草の斜面を登って行きました。

 湿った夏の夜風に吹かれながら土手上にあがると、上空の雲の切れ間から月の光が川面を照らしていました。

 河川敷のグラウンドこそ水没していませんでしたが、いつもより大幅に水量が増した川の流れはごうごうと音を立てて鈍い光をギランギランと反射させています。

「やっぱり、かなり増水してるね!」

「お水、凄いねぇ!みーちゃん」

 川を猫に見せながら私たちは言いました。

 …江戸川の河川敷にはブルーシート住まいのホームレスや川際の葦藪の中に潜む狸などが居るので、川の氾濫や増水は彼らにとって深刻な死活問題なのですが、とりあえず今回は寝ぐらや住みかを追い出されるレベルまでは水位が行かなかったようです。

 私たちが立っている草土手の上は遊歩道になっていて、アスファルト舗装がしてあります。

 今日は昼過ぎまで雨が降りましたが、夜になった現在の土手遊歩道は乾いていました。

「ミャウン、ミャウン!」

 その時みーぽんが私の腕の中で鳴いて、うぞうぞとうごめきました。

 私は猫をそっと地面に降ろし、10メートルほど離れた所で川を見ていたマキに駆け寄りました。

「…もうそろそろ帰ろうよ!」

 私が声をかけると、

「みーちゃんは?」

 マキがこちらを見て言いました。

「みーならあそこに…あっ !? 」

 言いかけて私は驚きました。

 何とみーぽんはその小さな身体の小さな四つ足を懸命に動かして、私たちに向かって近づいて来ます!

「みーちゃんが走った !! 」

 マキと私は同時に叫んでいました。

 今までまだ歩くことが出来なかった子猫がテテテテテテッ!! と駆け寄って来ます!

 マキは私の腕を取ってさらに15メートルほど先へと走りました。

 2人で振り返ると、みーちゃんは必死にテテテテテテッ!! と遊歩道をまっしぐらに私たちの足元に駆けて来ました。

「みーちゃん凄~い!初めてなのに速いね~!偉い偉い !! 」

 マキは興奮して猫を抱き上げ、その小さい身体に頬擦りしてもう大喜びです。

 私たちは調子に乗ってその後何度もみーぽんに「追いかけられっこ」をして遊びました。

 子猫が小さな四つ足を回転させて必死に走る姿はギャグ漫画の絵のように可愛くて楽しいものでした。

「アハハハハ… !! 」

 マキと私はそれを見て意味も無く可笑しくなって笑いこけてしまうのでした。


 …土手を降りて車に戻り、家に帰る途中もマキはみーぽんを抱いて上機嫌でしたが、私はハンドルを握りながらちょっと先のことを考えていました。

「…みーちゃんが動き回るようになった以上、もうプラ容器の中に収まってはいないだろうなぁ!…何だかいろいろ大変なことになりそう…!」

 …そしてその後、みーぽんとの生活は実際本当にあれこれ大変なセカンドシーズンに入って行きました…。



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