第20話 みーぽん銀座デビュー☆

 …みーちゃんが完全体に成長した冬も1月、2月と過ぎ、少しずつ吹く風も柔らかく緩んできた3月の週末、私たちは車に猫とマキの妹のサチを乗せて都内に向かいました。

 今日をみーちゃんの銀座デビュー☆の日と決めて出掛けたのです。

 私が運転する行きの車中では、マキが助手席、主役のみーぽん君は後部座席のサチの膝の上で寛いでいました。

 車は国道6号線 (水戸街道) を走って江戸川を渡り、都内に入ります。

 金町から青砥にかけては平日だとかなり渋滞するところですが、週末の今日はわりとすんなり走り抜けて行きました。

 向島から隅田川を言問橋で渡るとそこは私の生まれた街の浅草…松屋デパートの脇を走って江戸通りを進めば日本橋、車が昭和通りへ左折してまもなく銀座です。

 …私は昭和通り地下の都営駐車場に車を入れました。

「銀座に着いたよ!」

 私は、車がスタートしてまもなくから助手席でぐっすり寝ているマキに声をかけました。

「よし行こう、う~ちゃん! 」

 サチは猫のハーネスにリード紐を装着しながら言いました。

 そのみーぽんは車が停まった時点で、すぐにもう外に出たくてワタワタもがいています。

 …駐車場から地上に出る階段下で、抱いていたみーぽんを降ろすと、猫はいきなりダッシュで階段を駆け上がりました。

「うわっ!やる気満々だなぁ、みーちゃん !! 」

 リード紐を持つ私は猫に引っ張られるように追っかけ上がりをする形になりました。

 猫+3人で地上に出ると、みーちゃんは犬とは違って私たちの行きたい方向には進んでくれません。

 私は用意したリュックサックに猫をまるごと入れて背負いながら、歩行者天国となっている銀座通りに向かいます。

 リュックのファスナーを横側で少し開けると、みーぽんは頭だけを外に出して銀座の街の匂いをクンカクンカと鼻をヒクつかせながら嗅いでいました。

 向こうから歩道を歩いて来た外国人のマダムが、そんなシュールな姿のみーぽんを見て、

「Oh! It,s a cat!」

 とサプライズ顔で言いました。

 さらにみーぽんの鼻先に指を近付け、

「Hey,you are cute!」

 とフレンドリーなスマイルを向けて言いました。

 私は気を良くして、

「This is the cat in Tokyo style !」

 と応えると、彼女は頷きながら

「Oh~! It,s very fantastic !! 」

 と叫んで、

「Thank You! アリガトー !! 」

 と笑顔で手を振り、去って行きました。

 マキとサチは半ば呆れながら、

「外人さんにテキトーなこと言ってる~!」

 と笑いましたが、私はキッパリ言いました。

「何を言うんだ!ウチのみーちゃんは今確かに国際親善大使としての役目を果たしたんだぞ!」

 そして3人は銀座の街角でさらに笑ったのでした。


 …という訳で銀座通りの歩行者天国に行ってみると、日曜日の今日は大勢の人々が思い思いに闊歩していました。

「さぁ、みーちゃん銀座デビュー☆だぜ!」

 私はリュックサックから猫を出してハーネスにリード紐を着け、地面に降ろしました。

 今日の銀座通りは、やはり東京観光に来たらしき人たちが多く、買い物する観光客らの他に欧米人や中国人 (日本語ではない言葉を話す東洋人) など様々な人種が歩道を車道を楽しそうに行き交っています。

 中には犬を散歩させている人もちらほら見受けられました。

 銀座の象徴である三越百貨店や時計台の和光ビルをバックに記念撮影している人たちなどもいて、何だか今やすっかり国際的観光スポットになってしまった感じの銀座なのでした。

 そんな中、みーちゃんはずんずんと力強く歩き始めました。

 周囲の人たちが往来する合間をマイペースで進むみーちゃんでしたが、まもなく

「あら~っ !? 犬かと思ったらニャンコちゃんなのね~!」

 と声を掛けられ、ちょっと上品そうな年配の銀座マダムが近寄って来ました。

「まぁ~、可愛い!触っても良いかしら?」

 マダムはそう言うと、私たちが返答する間もなくみーちゃんに手を伸ばして頭や頬を撫でまわしました。

「あなたは凄いニャンコちゃんねぇ、銀座をお散歩するなんて!…男の子かしら?お名前は?」

 猫を可愛がりながら私たちに質問をしてくる銀座マダムはまるで少女のように無邪気な笑顔になっていました。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る