第21話 みーぽんお散歩ダッシュ

 …という訳で銀座を散歩するみーぽんは、少し進む度に猫好きピープルに捕まり、撫でられ触られ写真を撮られたりして、気がつけば周りに日本人のみならず外国の方たちまで寄って来て人だかりが出来るほどの人気者になってしまうのでした。

「こりゃあ好きなように散歩させるのは無理だな…!」

「みーちゃんたら凄いねぇ…!」

「身体も大きいから目立つよね!」

 私たち3人はそう言って猫をとりあえずリュックに回収しました。

 仕方ないのでリュックに入れたまま場所を移動して人が混んでいないスポットを見つけ、そそっとみーぽんを出してまた素早く散歩させます。

 ところが、張り切って歩くみーぽんの行く手に、何故か怖い目でこちらを睨んでいる数人の白人男性らの姿がありました。

 その中の1人、私たちに背中を向けていた男がこちらを振り返った時、その手にはマイクが握られていたのです。

「あっ !? 」

 思わず私は叫びました。

 …彼らは海外メディアのクルーだったのです!

 おそらく海外特派員レポート in

 Tokyo みたいな撮りをしていたのか、マイクを持ったレポーターは真剣な表情で東京から自分たちの局へメッセージを伝えていたのです。

 そのバックにのほほんと猫を散歩させている私たちが映ってしまって…たぶんライブ中継だったとしたら優雅に銀座を歩くみーぽんの姿が外国のテレビ画面に生中継で届けられてしまったことでしょう。…知~らないっと!


 …という訳で鮮烈な銀座デビュー☆を果たしたみーぽん君でしたが、それから数日後、今度は残念なお知らせが待っていました。

「今日お母さんから電話があって、もう日中にみーちゃんを預かれないって!」

 会社から帰ると、マキが私に言いました。

「えっ!どうして?…何かあったのかな !? 」

 と訊くと、

「今日の昼間にベランダで洗濯物を干してたら、みーちゃんが部屋から出て来てベランダでニャオ~ン!って鳴いたらしいのよ!…それを隣の小林さんに聞かれちゃって…」

 マキは憮然として報告を続けました。

「…団地は犬猫飼育禁止ですよね!ってシタリ顔で言われたんだって !!…」

「…なるほど」

 私はそう言って頷きました。

「…じゃあこの先、日中はどうする?みーちゃん…」

 懸念の言葉を口にすると、マキはキッパリと答えました。

「みーちゃん用のケージを買いに行く!」

 素早く結論が出たので私たちはペットショップに直行し、小型犬用ケージを購入して、家の浴室に設置したのでした。


 …翌日からは、私とマキが出勤する時には猫はケージに閉じ込められる生活となりました。

「ニャオ~ン!ニャオ~ン!」

 玄関を出ようとすると、ケージの中からみーちゃんの哀しげな鳴き声が聞こえて来ます。

 ちょっと心中で後ろ髪を引っ張られながらもドアを閉めて私とマキは会社に出勤して行くのでした。


 …いつもはだいたい事務職のマキの方が早く帰宅することが多いのですが、その日は残業でもあったのか、私がひと足早く家に戻って来ました。

 外の通りから家の玄関に近付くと、すでに浴室の窓越しにみーぽんの鳴き声が聞こえてきました。…おそらく私の足音で帰宅に気付いたのでしょう。

「ただいま~、みーちゃん !! 」

 家に入って浴室を覗くと、ケージの中の猫はさらに激しく鳴き声を上げました。

「早くここから出してくれぇ~っ !! ニャウニャウニャウ~ン!」

 痛いほど分かりやすい鳴き声に、ケージの扉を開けてやると、みーぽんはダッシュで外に飛び出して、廊下を走って玄関に行きました。

「お散歩に行きたいんだね?みーちゃん」

 玄関の前にちまりんと座っているみーぽんのハーネスにリード紐を着けてドアを開けると、猫は元気に外へ歩き出しました。

 通りに出ると、いきなりみーぽんは何かに興味ひかれたのか、突然ダッシュで駆け出しました。

 慌てて私もリード紐を持ちながら猫を追って走ります。

 ところが30メートルほどダッシュした猫は、そこで突然左手の月極駐車場の中に直角移動したのです。

「おわぁっ !? 」

 人間の方はそんな走り方は出来ないので私は足を踏ん張ってスライディングブレーキで止まろうとしましたが、滑って転びました。

 一方のみーぽんの方も私が転んだのでリード紐が伸び切った瞬間に身体を引き戻されるように足が浮いて転倒しました。

 親子とも派手な転倒という結果に、身体を痛めながら思わず私は呟いたのでした。

「ハードだぜ…猫散歩!…」





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