第19話 男前みーぽん誕生!

 …しかしこの河川敷での出来事は、私とマキに一つの決断をさせることになりました。

 翌日の夕方、私たちはペットショップに行き、店員に尋ねました。

「…猫用のハーネスって有りますか?」

 …応対してくれた女性店員さんは、明らかに戸惑いを見せましたが、私たちは昨夜の出来事を話して、

「散歩させて勝手に他人の家に行ってしまうと大変なので…ハーネスを装着したいんです!」

 と訴えると、

「猫用というのはちょっと…首輪ではだめなんですか?」

 答える店員さんに私は、

「リードを着けて引っ張ったときに首が締まるものはダメです」

 と言うと、

「う~ん……」

 店員さんはそのまま対応に詰まってしまったのでした。

 …結局のところ猫専用のハーネスというものは無く、仕方ないので小型犬用のものを買いました。

 実際、猫にリードを着けて散歩する人はあまりいないようです。


 …それ以降、私たちはさらにいろんな所へみーぽんを連れて行って散歩させるようになりました。

 ハーネスとリード紐を装着して、最初はやっぱり近所の公園デビューをしました。

 そしたらもう…猫は喜び庭駆け回るかと思いきや、実際には植え込みや草藪の中にばかり行きたがるのです。

 …結果から言うと、公園はあまり猫の散歩には向かない場所でした。

 まず何しろ小さい子供がダメです!

「あっ、猫だ~!」

「猫がいる~ !! 」

 奴らはそう叫びながらみーぽん目掛けて走って来ます。

「キャハハ~ッ !! 」

 そして騒ぎながら猫の周りを駆けずったり付きまとったりするので、みーぽんは警戒心と恐怖心で怯え眼になってしまうのでした。

 猫の心理状態など分からぬ子供たちは面白がってしつこくそれを続けるので、もう諦めて引き上げるしかありません。

 それから、他の野良猫との遭遇にも注意しなければなりません。

 植え込みや草藪の中は野良猫の住みかになっていることが多いので、うっかり遭遇すると「図体のデカい奴が縄張りを荒らしに来たぞ!」と思われるらしく、相手はドスの効いた唸り声で威嚇してきます。

 王子様のようにちやほや優しく育てられ、去勢も済んでるみーぽんは、なぜ威嚇されているかも解らず「あう~ん !? 」と情けなく鳴いて立ちすくみ、長い睨めっこになるのでした。

「なかなか猫の散歩って難しいもんだな… ! 」

 私はそう呟いてため息をつき、だんだんと近所の散歩はしなくなっていきました…。


 …やがて年が明けてお正月が来ると、みーぽんの身体は完全に成体となり、体重は7キログラムほどになりました。

 それこそリードを着けて散歩などさせると、会う人が必ずと言っていいほど、

「デカっ !? …」

 と叫んで反応するようになったのです。

 しかし成体となったみーぽんは、身体の模様もハッキリして凛々しい姿の男前猫になりました。

 基本的には茶色地に黒のキジトラ模様ですが、四つ脚の足首から下は白足袋色、顔は鼻から下の胸まで白毛で、両目からも落涙ラインが白いのです。

 さらに両前足に白い稲妻のような模様が走っていて、もう牝猫はもちろん牝人間のマキやその他の女性までをも

「いや~ん、ステキ~っ !! 」

 とメロメロにさせるイケメン猫完全体に出来上がりました。

 しかし私が個人的に見た最大のチャームポイントは、実はポヨンとしたお腹とそこだけボサッと長い体毛で、何だかそこはかと無く親近感を覚える部分なのです。

「みーちゃんが男前に成長したから、それに相応しいところでお散歩デビューさせようよ!」

 パッと思いついたようにマキが私に言いました。

 そして私は提案されたその「相応しい場所」を聞いて驚きました。

 …マキが提案したこと、それは何とみーぽんの「銀座デビュー☆」だったのです!

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