第18話 河川敷の出来事

 …手術から3週間が経過して、ようやくカラーを外して通常の姿に戻った時、みーぽんは普通の猫より5割増しくらいの体格になり、下腹部の体毛も恥ずかしくない程度に生え揃っていました。

「みーちゃん普通以上の猫に成長&復帰おめでとう記念に、みんなで夜のお散歩に行こう!」

 …会社から帰宅した私はマキに言いました。

「今までかなりのストレスをみーちゃんも感じてただろうから、今夜は思いきり走り回らせてあげようよ!」

 …という訳で、私たちはみーぽんを車に乗せて江戸川に出掛けて行きました。

 河川敷に猫を放すと、みーぽんは夜のグラウンドの芝の上を喜んで駆けて行きました。

「あまり遠くに行っちゃダメだよ~っ!」

 マキが叫ぶとみーぽんは止まって振り返り、

「ニャ~ッ !! 」

 と鳴きました。

 月明かりの河川敷をしかし猫はさらに遠くへ走って行って、グラウンドの向こうの丈の長い葦の藪の中に消えました。

「みーちゃ~ん!」

「み~っ !! 」

 心配になってマキと私が叫ぶと、葦藪の中から、

「にゃ~っ!!」

 と小さく声が聞こえましたが、その後いつまで経っても戻って来ないので、私はグラウンドを走って突っ切り、藪の中の猫を探しに行きました。

 …しばらくの間、ガサゴソと草むらに分け入りながらみーぽんを呼んで動き回ると、突然奥の葦藪の中から、

「これはあんたの猫ちゃんか?」

 と声がしたのです!

 …思いがけぬ声に驚いて私が立ちすくんでいると、ガサガサと草をかき分ける音がして、葦藪の中からみーちゃんを抱いた男が出て来ました。

 男はボサボサの髪にくたびれた服装、ヨレたジャンパーを着た小柄な年配者で、どう見てもホームレスのおじさんでした。

 おじさんは私を見ると笑顔になって言いました。

「いやぁ…俺がウチで晩メシ食ってたらよ、コレが俺んちにトコトコ入って来て俺の顔見てっからよ、腹減ったんか?って訊いたらよ、にゃ~ん!って鳴くからよ、しょうが無いから晩メシご馳走しちゃったよ~!ハハハッ !! 」

 …笑うおじさんの後ろの葦藪の隙間から奥の方に視線を移すと、川岸近くにブルーシートと段ボール製の住居らしきものが見えました。

「おい、とうちゃんが心配して探しに来たぞっ!良かったなぁお前!」

 おじさんはそう言うと、抱いていたみーぽんを私に差し出しました。

「どうもすみませんでした、晩御飯まで頂いて…ありがとうございます」

 私がとりあえずのお礼の言葉を返すと、

「いやぁ良いんだよ、でもこのニャンコちゃんはずいぶん腹減ってたんだな…メシをガツガツ食ってたよ、ハハハッ !! 」

 おじさんはさらに愉快そうに笑いました。

 …おじさんに頭を下げ、きびすを返してみーぽんを抱いて車に戻ろうと歩いて行くと、マキが心配そうにグラウンドの途中に立っていました。

「みーちゃん !! …いったいどこに行ってたの?もうっ!…」

 私の腕から猫を奪うと、自分の胸に抱いてマキは言いました。

「ホームレスさんのおうちにお邪魔していました… ! 」

 私が言うと、

「ええ~っ !? 」

 マキは驚きました。

「しかも晩御飯までご馳走になっていました… ! 」

「ええええ~っ !? 」

 …という訳で2人で猫の顔を覗き込むと、みーちゃんは大きく「くぁ~~ふ !! 」とアクビしてペロンと鼻を舐めました。

「お前は~~っ !! 」

 マキと私はそれを見て笑いました。

「コイツを受け取るとき、かなり恥ずかしかったよ」

 私が言うと、

「アッハッハッハ~ッ… !! 」

 マキはさらに大笑いしたのでした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る