第17話 家庭内怪獣の進撃
…そしてマキと寂しい夜を過ごした翌日の午後、2人で動物病院に猫を迎えに行くと、みーちゃんはあっ!と驚く姿に変わっていたのです。
「…手術は無事終わりましたよ!」
マキと私に先生はそう言って笑顔を見せました。
私たちはホッとした顔で、
「ありがとうございます!…もう連れて帰れますか?」
と訊くと、先生は助手役の女史に笑顔で目配せしました。
「今、連れて来ます!」
助手女史はそう言って奥の部屋に向かいました。
「いや~、それにしてもみーぽん君は大した猫ですよ!…」
先生は私たちに言いました。
「えっ?」
私たちが戸惑いを見せると、さらに先生は楽しそうに話しました。
「だいたいの犬や猫は手術後にケージへ入れると、オーナーさんと離れた寂しさや慣れない状況から、餌も食べずに大人しくなってしまうんですが、みーぽん君はもう…ケージの中で麻酔から目覚めたらニャアン!と鳴いて、さっそく餌を与えたらモリモリ食べました!…素晴らしかったですね」
「はぁ…」
私とマキがちょっとうすら恥ずかしい気持ちを覚えたところに、
「お待たせしました~!」
助手女史がみーぽんを抱いて出て来ました。
「あぁっ !? …」
私とマキはしかし驚きの声を上げました。
戻って来た猫はあまりにも奇異な姿に変わっていたのです!
「こ、これはっ !? 」
…みーぽんの首には大きなカラー (着け襟) がぐるんと装着され、エリマキトカゲ風と言うか、ラッパ頭になっていました。
さらに、下腹部のボサッとしてた体毛がガッサリ剃られて地肌がむき出しになっています。
「うわ~!ラッパ頭のパイパンにゃんこだぁ !! 」
「………!」
みーぽんの変化に驚く2人に、先生が説明を始めました。
「…患部を切開するのに下腹部の体毛が邪魔なので剃毛しました。患部は縫合してあるのでみーぽん君が舐めないようにカラーを首に着けました。3週間は外さないで下さい!」
(えっ?…今日から3週間もこの姿… !?)
先生の言葉を聞きながら私たちは内心ちょっと「うへぇ…!」と思いつつも気持ちの動揺を隠して頷くしかありませんでした。
…会計を済ませ、猫を連れて家に帰ると、さっそくみーぽんはお腹が減ったよ!とミャ~ミャ~鳴き声を上げました。
「…お前は何があっても食い意地だけは変わらないねぇ…!」
半ばあきれながら食事皿に餌を入れてやると、何と首に巻いたカラーが邪魔になって猫は餌を食べることが出来ません。
みーぽんはイラついてぶんぶんと首を振り、カラーを取ろうとしましたが、3箇所のホックでしっかり留まっているのでそんなことで外れるはずもありません。
「やれやれ…」
結局マキがスプーンで餌をみーぽんの口に運び、食べさせることになりましたが、猫はスプーンから餌を摂るのがとても下手なのです。
猫の口の構造から、一口でパクッ!と含むことが出来ないのです。
「こりゃあしばらく不自由だぁ…」
私は再び「う~む!」と心中で呟いたのでした。
…という訳で去勢手術後のみーぽんは、まるで借りて来た猫のように大人しくなり静かで穏やかに過ごす毎日が訪れ…るかと思いきや、実際にはな~んも変わらずにむしろさらにパワーアップしていました。
「ズガッ !! 」
「ドカッ !! 」
「ガキッ !! 」
…家の中をみーぽんが歩く度に、でかいカラーがタンスやらテーブルの脚やら柱の角にぶつかり、それでも猫はひるまずにチカラワザでのし歩いて行くのです。
「うへ~!…」
「全然おしとやかにならないじゃん !? 」
私とマキは呆れたような面白いような気持ちでその異生物の姿を見つめました。
ラッパ頭猫は上下左右の視界が狭くなっているので首を振りながら歩くため、余計にあちこちにぶち当たりながら進撃して行くのでした。
まるでその様子はビル街をぶち壊しながら闊歩するゴジラにも似た勢いです。
「…ラッパ怪獣ネコラー… !? 」
私たちはみーぽんの進路に注意して、例えばテーブルの上に水の入ったコップがあれば素早く取り除くなどの防衛態勢をとりながらの厳戒生活となったのです。
さらにみーぽんはチカラワザ進撃によって余分な体力を消耗するためか、やたらとミャ~ミャ~鳴いて餌をねだります。
猫バカ母さんマキはその度に喜んでスプーンで猫御飯を与えるので、ラッパ怪獣はどんどん逞しく成長し、どっしりした下半身に太い四つ足、艶のある体毛と三拍子揃った完全無欠の成体へと進化して行きました。
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