第8話 絶好調みちのくにゃんこ旅

 …翌朝、目覚めると周りはすでに明るくなっていましたが、時計を見ると時刻は6時ちょっと前、上空は曇り空でした。

 助手席のマキはまだ熟睡中、後席のみーぽんは容器の中でぐにぐにとうごめいています。

 その身体を手に取って子猫の顔を覗き込むと、例によって "お腹が減ったよミャウミャウ" 鳴きで朝御飯要求を始めました。

「…朝御飯はお母にゃんが起きてからだよ… ! 」

 私はみーぽんにそう言い聞かせて容器に戻すと、サービスエリアのトイレに行って顔を洗った後再び車をスタートさせました。

 …朝の東北自動車道は通行量も少なく快調なハイウェイ、梅雨どきの濡れた緑の景色の中をずんずんと進んで行きます。

「ん~ん、んっ!…ここはどこ?…」

 ようやく助手席のマキも伸びをしながら目を覚ましてキョロキョロと車窓風景を見回しました。

「…もう福島県から宮城県に入るところだよ…この先で東北道から分岐して山形道に向かう!…ところですでにみーぽん君はお目覚めしてお腹が減ったと泣いています!」

 私がそう言うと、

「あら、それは大変!じゃあお母さんがすぐにミルクを上げましょうね~!…という訳で次のサービスエリアに車を停めてちょうだい!」

 マキは子猫を手に取って、強引に頬擦りしながら言いました。

 …車は東北道村田ジャンクションを折れて西へ…山形道に入ると、路面は登り勾配の山越えルートになりました。

 宮城県から山形県に抜けるこの山岳区間はまだ完全に道路が出来上がってなくて、一部で片側1車線の対面通行となっていました。

 …峠となる県境部分はトンネル貫通となっていましたが、それを抜けて山形県に入ると一転して急勾配の下り坂になり、山の中腹を巻くようにカーブが続きます。

 …山あいを下りカーブで走り抜け、山裾の向こうに山形の市街が見えてくると、展望が開けた場所に山形道山形北パーキングエリアがあったので、私は車を入れました。

 …時刻はまだ朝の8時前でしたが、薄曇りの上空に白く透けて見える太陽はすでにかなり高い位置にあり、山形盆地の空気は朝の涼しさに代わってじわじわと蒸し暑さが立ち込めてきつつありました。

 …ここのパーキングエリアはトイレと自販機しか無いさっぱりとした所で、私は車からみーぽんを出して芝の植え込み前のベンチに置いてみました。

 子猫は見慣れぬ場所にポンと置かれて、戸惑ったような顔で鳴きもせずに頭をキョロキョロと動かしました。

 しかし足腰はまだしっかりしてないので歩くことは出来ない様子です。

「!…あら~っ !? 可愛い~っ!子猫ちゃんを連れて車で来てらっしゃるの?」

 ベンチでみーぽんと寛いでいると、見知らぬ高速道路利用客のオバサマから声をかけられました。

「…ええ、はい ! 」

 不意のことで曖昧な言葉を返すと、オバサマも猫オーナーだということで、みーぽんにたいそう興味ひかれた様子です。

「あなた、ちっちゃいのにご家族と一緒に車で旅行なんて凄いわねぇ!偉いわぁ!」

 オバサマは子猫に顔を近付けると、キラキラハートが溢れる少女のような瞳で言いました。

「…ウチの子もちっちゃい頃にこうして車に慣らしておけば良かったわぁ!…今はもう全然ダメなの、車は…ではおちびちゃん!ごきげんよう」

 羨ましそうに私とみーぽんにそう言って、オバサマは自分の車に戻って行きました。

 入れ替わるように哺乳瓶を持って車から降りて来たマキが、

「…あのオバサンと何話してたの?」

 と訊くので、

「みーぽん君が可愛いって絶賛してたよ!」

 と答えると、とたんにマキはフフン顔になり、

「そんなの当然よ!私の子だもんっ !! 」

 と、猫馬鹿絶好調有頂天無限大Max満塁ホームランかっ飛ばし大勝利ヒーローインタビュー状態を極めて言い放ったのでした。

「みーぽん可愛さ世界一~!」

 と言いつつ子猫にミルクをやるマキに背を向けて私はパーキングエリアの「山形県観光案内図」掲示板を見ながらこの後の行き先を思案していました。



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