第7話 旅は猫連れ
「あなた~っ!大変!」
…翌日、私が勤めを終えて帰宅すると、もはや恒例化したかのような、マキの "あなた大変" 報告がありました。
「みーぽんが哺乳瓶の吸い口のゴムを牙でかじって穴を大きくしてたの!」
「え~っ !? 」
その報告にびっくりして哺乳瓶をよく見ると、確かに針の穴みたいだった小さな吸い口が、今ははっきりと中が覗けるようなデカい穴になっています。
「…って訳でミルクの減り方が素早くなりました!」
マキが苦笑いしながら言いました。
「!…みーぽん、恐るべし!」
私は思わず呟きました。
…そしてストレス無く思う存分お腹を満たした当のみーぽん君は容器の中で丸くなり、スヤスヤと幸せそうに眠っていたのでした。
「…あなた~…クク…大変~!」
さらに翌日の私の帰宅時のあなた大変報告では、笑いをこらえるような話し方でマキが言いました。
(いくら何でもそう毎日毎日大変なことばかり続かないだろ !? )
私はさすがに今日はちょっと内心タカをくくって聞いていました。
「あのねっ!…哺乳瓶の吸い口のゴムのカケラが本日みーぽんのお尻から出ました!」
「……… !?」
私は一瞬絶句して、思わずみーぽんの容器を覗き込みました。
そしてマキとお互いの顔を見合せた後、2人で改めて大笑いしたのでした。
…貰ってから3週間くらい経った頃にはみーぽん君の身体は冷やし中華容器の半分を占めるほどの大きさになりました。
季節は6月の中旬、関東エリアがすっかり梅雨入りした週末金曜日の夜、私たちは車にみーぽんを乗せて東北に旅に出掛けました。
…と言っても明確な行き先も特にはっきりと決めない気ままなドライブです。
「関東は蒸し暑い季節になったから何となく山形にでも行って見ようかな…!」
私は助手席のマキに何となくそう言って車をスタートさせました。
…松戸市から野田、結城、真岡へと一般道をオリジナルのルートで北に向かって走るうちに、容器入りみーぽんは後部座席で、そしてマキは助手席でいつの間にか眠ってしまい、私は夜の田舎道をマイペースで気持ち良く車を飛ばして行きます。
…烏山から那珂川沿いに馬頭、黒羽と、栃木県東那須エリアののどかな里山の道をさらに北上します。
と言っても、すでに真夜中の時間帯なので、今は黒い里山のシルエットの上に星空が見えるだけの闇中の道です。
このルートは「東山道」と呼ばれるみちのく白河に至る街道で現在は国道294号線となっており、周囲は緩い稜線の里山と田んぼばかりの一般道ハイウェイといった感じなのでした。
…だらだらとした登り勾配の国道を突っ走って白河市に入ると、ここはもう福島県。…みちのく入りした私はしかしさすがに眠気を感じてきました。
…白河インターから東北自動車道に乗り、安らかに眠っているマキとみーぽんの寝顔を横目にチラリと見て、最初のサービスエリアに入ります。
睡魔との闘いにもはや勝てなくなったので、車を停めて座席を倒して私も睡眠を取ることにしました。
…窓を少しだけ開けると、夜の涼しい空気が肌身にちょうど良い塩梅で、私は速やかに眠りの中に落ちて行きました。
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