第44話 最終話 秋の休日

「あの時は…治ったら奇跡とかって言ってたんだよなぁ…!」

 …私はそんなことを呟きながら、車のハンドルを握っていました。

 …今日は秋の休日、私たちは栃木県方面に向かっています。

 田園風景を行く広域農道の周りの里山もすっかり色づき、遠景の山々は秋晴れの空の下で陽光を淡く反射させています。

 私たちが目指す行き先は、今がベストシーズンの温泉です。

 …どこの温泉にしようか思案しながらのマイペースドライブ…私は鼻唄を口ずさみながらアクセルを踏んでいました。

 後席には例によってみにゃんがへよ~んと寝ています。


 …途中の道の駅で休憩して、みにゃんを散歩させると、いつものようにギャラリーが寄って来ます。

「あら~ !! お散歩にゃんこだ!可愛い~ !! 」

「お洋服着てる~!」

「本当だ~ !! 」

 …みんなから声がかかります。


 結果から言うと、みにゃんの手術後の腫瘍の再発はありませんでした。

 鹿児島からの漢方薬は、一年間毎日呑ませました。

 …手術後、しばらく経って首のカラーを外してからも、毎日患部を見ながら腫れ再発の有無をチェックしてきましたが、先生の摘出が完璧だったのか漢方薬が効いたのか、腫瘍は消えたままでした。

 その漢方薬の投与も先月までで止めました。

 …猫の体毛を剃られた部分が見た目以上に大きく違和感が残ったので、手術後私たちはペットショップで小型犬用の服を買って来て、みにゃんに着せるようになりました。…するとマキは以降それにハマって、みにゃんはすっかり着せ替えにゃんこになり、散歩の時のギャラリー人気がさらに上がる結果になりました。


 …道の駅の利用客はその土地周辺の人が多く、普段着の婦人がみにゃんを見て話しかけて来ました。

「…私も猫を飼ってたんだけど、去年の暮れに病気で死んじゃったの…この子は元気で立派な身体で良いわねぇ…」

 そして目を細めてしばらくみにゃんの顔を撫でていました。


 道の駅から車を発進させると、私は助手席のマキに言いました。

「…去年の手術の時までは、足を切らずに治ったら奇跡だっていうような話だったけど、結局普通に治っちゃったじゃん!」

「うん!…だから奇跡が起きてたんだよ、地道に!」

「えっ !? 奇跡ってのは普通、劇的にかつ感動的に起きるもんじゃないの?」

「今回は地道にコツコツと起きた奇跡なのよ!」

「…う~ん、しかし普通は動物とがんと家族が絡んだ奇跡だと、ドラマや映画なんかじゃ感動の物語になって全米が泣いたりするのになぁ…!」

「地味な奇跡だから…、誰も泣かないし」

「フフフフ…!」

「アハハハ…!」

 当のみにゃんはマキの膝の上に移り、またへよ~んと寝ています。

「そんなことより、もうすぐお母さんの三回忌だよ!」

 マキが言いました。

「そうだな、早いもんだね!…ひょっとしたら今回の奇跡は、お義母さんの天からの御加護があったのかな?」

「…う~ん、いや、たぶんみにゃんの地力!」

「みにゃんの地力かよぉ !? 感動的じゃ無いなぁ…!」

「感動ゼロ、ドラマ性無~し!」

「ぴぃ~っ、寂し~っ !! …約1名が泣きました!」

「アッハッハッハ…!」


 …最後は2人で笑いながら、車は紅葉に染まる木々の中の道を温泉に向かって走り抜けて行ったのです。



 奇跡の猫 みにゃん 了

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奇跡の猫 みにゃん 森緒 源 @mojikun

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