第43話 奇跡を信じて…!

 …診察台のみにゃんの腫れ物を見ながらしばらく考えていた先生でしたが、私たちの必死のすがり目に気付いたのか、ようやく決断の言葉をくれました。

「分かりました!…どうしてもと言うのであれば、お互いに奇跡を信じて手術してみましょう !! 」

 私とマキはそれを聞いてホッとしながらも、

(奇跡を信じて…かぁ)

 と心の中で呟いていました。


 …手術は翌日の午後、先生の執刀で行われました。

 私たちはみにゃんをさらに次の日まで動物病院に預けていったん家に帰ります。

「…あなた、あのね!」

 …車を運転する私にマキが言いました。

「サチがインターネットで調べてくれたんだけど、鹿児島県の方に日本で唯一、動物のための漢方薬を処方してくれるお医者さんがあるらしいの!…」

 私はちょっと驚き、

「へえ~、それで?」

 と言うと、

「犬猫のがんに効く薬も処方するんだって!…しかも頼めば全国に送ってくれるって言うの!…どうしよう !? …試しにお願いしてみる?」

 と言うのです。

「…う~ん !? 」

 予想もしなかった突然の話に私は戸惑いを覚えました。

(…しかし、サチもマキもみにゃんのために必死でいろいろ考えて調べたことなんだから、いい加減な怪しい情報でもないだろう!…)

 私はそう思ってマキにキッパリと言いました。

「よし、そこに頼んで薬は手配してもらおう!…もうワラにもすがってみにゃんを治さないとな!」

「分かった!サチに手配を頼んで取り寄せてもらうわ!」

 マキはキラリ目になって応えました。

(よしっ、これで出来るだけの手は打ったな!…後は神様に奇跡をお願いするだけだ…!)

 マキと私は2人して強く力んでそう思ったのでした。


 翌日は月曜日だったので、私とマキは会社が終わるとダッシュで手術後のみにゃんを引き取りに行きました。

 …しかし動物病院の診察室に呼ばれて中に入ると、アッと驚く状況がそこにありました。

 診察台の上には、右の後ろ足の付け根から脇腹まで広い範囲で体毛を剃られ、ぐったり寝ているみにゃんの姿が…しかも下腹にはおそらく切開、縫合の痛々しい手術跡を隠して貼られた白いガーゼが見えていました。

 さらに首には例のでっかいカラー (着け襟) が巻かれ、久々のラッパ頭になっています。

 けれどもそれ以上に目を引いたのは、みにゃんの脇に置かれた銀のバット (医療容器皿) でした。

「…いや~、中にはすごい量の腫瘍が詰まってましたよ!…そこにあるのがそうです!とにかく出来る限り摘出しました」

 先生が示した銀のバットの中は、まるで皮を剥かれたブドウの果肉みたいな、プルプルしたゼリー塊状の半透明な異物がでろでろ山盛りになって入っていました。

「…なので、ちょっと広範囲に下腹部を切開しました。みーぽん君もかなり疲れたと思いますが、まぁこの子は身体も骨格もがっちりしてるので間もなく回復してくれるでしょう!」

 先生は笑顔でそう言いました。

 …確かにあらためてみにゃんを見れば、足の付け根の腫れ袋は完全に消え失せていました。

 先生は私たちの希望通りの手術を忠実にやってくれたのです。

「…ありがとうございます!…ここまでしっかりやって頂けたら、もう何も言うことはありません!本当に感謝しています!」

 私は素直に先生にそう言いました。

「…後は、再発しないように祈るだけですね…!それだけはもう、何とも言えませんから」

 先生は急に冷静な顔になって私たちに言いました。


 …家に連れて帰ってその後3~4日は、さすがのみにゃんも動くのが辛そうな感じでしたが、だんだん元気を取り戻して、1週間も経つとすっかりまたドタドタ走り回るようになりました。

「…回復早っ !! 」

 私もマキもビックリの元気っぷりです。

 カラー巻きラッパ頭の怪獣みにゃんは、以前にも増してドカンバキッ ! と破壊音を響かせて家の中を駆けずり回りました。

 …同時に、鹿児島県の漢方医からは薬が送られて来ました。

 マキは以降毎日一回、粉末の漢方薬を餌に混ぜてみにゃんに与える役になりました。

 日本で唯一の動物漢方医から届くその処方薬は、ひと月分で2万円という値段でしたが、それでがん細胞を封じ込められるなら安いものだと思いました。

 私たちは必死にみにゃんのがん細胞と闘い、当のみにゃんは毎日元気な傍若無人猫となって好き勝手に過ごしました。



 …そして手術してから1年が過ぎました。


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