第4話 うずら君とまだら君
容器の中を覗いて見たら、何と子猫は2匹になっていたのです。
新たに追加の子猫は、黒と茶色のまだら模様で、例によってミャウミャウと弱々しく鳴いていました。
「…さっき、またお嬢ちゃんが来て、この子を今夜ひと晩だけ預かって下さいって頼まれちゃったの!…」
マキはそう言って、私に詳しい事情を話しました。
…実は、お嬢ちゃんが拾って来た猫は2匹だったのです!
さすがに私たちに2匹とも貰ってくれというのは無理だと判断した彼女は、自分の部屋に一匹を隠しながら学校の友達をあたって何とか貰い手を見つけ、明日に引き渡しの約束となったということでした。…それで今晩だけマキを頼って来たという訳なのです。
「…ということで今夜だけ仲良くしてね、まだら君!」
マキは困ったような嬉しいような顔で追加にゃんこに声をかけました。
「…それにしてもうずら君とまだら君はたぶん兄弟のはずなのに、似てないわねぇ」
冷やし中華のプラ容器に2匹揃った子猫を眺めながらマキが楽しそうに言いました。
…捨て猫ということはたぶん雑種なので、いろんな模様の子猫ができるのは当然だと思うのですが、「兄弟なのに似てない」って表現はどうなのかな?と私は胸中で呟いたのでした。
…その晩、就寝時にマキは2匹の入った容器を枕元に置いて布団に横になりました。
うつうつと私たちが眠りにつこうとすると、容器の中から「ミャウミャウ!」と夜鳴きをします。
(やれやれ…)
これからしばらくは子猫の夜鳴きに悩まされるのかと思うと、私はちょっと心中でゲンナリとしましたが、マキはのそのそと布団から上体を起こして子猫にミルクを与えました。
…容器の中をよく見ると、最初のうずら君より、後からのまだら君は身体もやや小さく鳴き声も元気が無いように感じられます。
「…まだら君がちょっと心配ね…ミルクをやると一応は必死に飲んでくれるんだけど、すぐにケポッと吐き出しちゃうのよ」
マキは眠い目をこすりながら言いました。
確かに2匹の猫を見比べると、ひたすらミルクをチュクチュクと飲むうずら君は赤ちゃん猫ながら逞しい感じですが、まだら君の方は懸命にミルク脱脂綿に吸い付くも、時々プフッ!とむせたように口を離したりして上手く飲めない様子です。
そして何とか飲んだミルクも少しするとケプッ!と戻してしまいました。
「…なるほど」
…考えてみれば猫の子に親の母乳ではなく他の動物の乳を与えている訳ですから、デリケートな拒否反応みたいな現象もあるのかも知れないな…とも私は思ったのでした。
翌日、まだら君は再度お嬢ちゃんの手に戻されました。
「…この子、あまりミルク飲まなかったから、もしも衰弱する様子があったら動物病院で診てもらうように飼い主さんに言ってね!」
まだら君を手渡す時にマキはそうアドバイスを添えました。
…さて、次の日からは私たちも普通に会社に出勤しなければなりません。
私は会社の営業車で通勤していますが、今日からは出勤途中でマキの実家に寄ってお義母さんに容器入りにゃんこを預けて行く生活です。
日中はお義母さんに面倒を見てもらって、夕方にはマキがマイカーで受け取りに行きます。
「…やれやれ、何だかさぁ…実家に預けたり家族の女性陣総がかりで大事に育てられるとは…こいつは王子様かいっ?」
思わずそう言うとマキが私の肩を叩いて答えました。
「私の知ってる誰かさんとおんなじだわ!」
そんな毎日が始まって数日たった夜、私が勤めから帰るとマキが悲しそうな顔を向けて言いました。
「まだら君が…貰い手さんの家で今朝亡くなったんだって!…お嬢ちゃんから報告が…」
「 !? …そう…」
私は言葉が浮かばず、2人でただやるせない気持ちになったのでした。
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