第3話 にゃんこお披露目作戦
…という訳で私たちは朝御飯を済ますと、子猫を冷やし中華容器ごと車に乗せてマキの実家に向かいました。
マキの実家は同じ松戸市内の団地です。…家族は3階の1世帯で、2DKの間取りに両親と、マキとひとつ違いの妹サチが住んでいます。
…階段を上がって玄関の呼鈴を押し、扉が開くとマキはいきなり、
「ほら~!」
と言ってにゃんこ入り容器を差し出しました。
玄関に出て来たお母さんと妹は、突然のことに驚き、容器の生き物を覗き込みながら、
「何これ?…うずら?」
と言いました。
子猫の体毛が焦げ茶色と黒の縞模様だったので、パッと見た感じでそう思ったのでした。
「うずらじゃないよ~!」
マキが苦笑いすると、
「あっ!猫だ!猫だよね !? …ちっちゃ~い!」
妹サチが興奮して言いました。
「どうしたの?この猫ちゃん」
…部屋に上がらせてもらうと、お母さんに訊かれたので私はこれまでのいきさつを話しました。
「…アッハッハ~!おばあちゃんを利用するとは流石ね、そのお嬢ちゃん !」
妹サチが笑って言いました。
「…しかし、こんな赤ちゃん猫なんて、お前たちちゃんと育てられるのか?」
ミャウミャウと鳴き始めた猫を見て、お父さんが真面目な顔で言いました。
「絶対に育てるから大丈夫だよ!…もう家族だもんね~!」
マキは猫を手のひらに乗せて言いました。
「よし、じゃあこの子の名前はうずらちゃんね!」
突然お母さんがそう宣言して女性陣はさらに盛り上がりました。
「しかしマキ!…お前たちは2人とも勤めがあるだろう?昼間はどうするんだ、この猫!…」
浮かれる女性陣に水をかけるようにお父さんは冷静に現実的な問題を指摘してきました。
その鋭い指摘に私はちょっとたじろぎましたが、マキは涼しい顔で言いました。
「フッフッフ!…今日来たのはその件のあたりも考えてのことさっ!」
…要するにマキは最初から実家の協力をあてにして、平日の昼間はお母さんにこっそり子猫を預けるつもりだったのです。(…もちろん団地はペット飼育禁止なのであくまでもこっそりとです!)
「…それじゃあ月曜日から仲良くしましょうね~!うずらちゃ~ん!」
お母さんは目を細めて楽しそうに言いました。
(えっ !? あっさりオッケー?)
私はちょっと拍子抜けするくらい話が簡単に進むので驚きましたが、おそらくその辺は母娘の呼吸で分かり切ってた展開だったのでしょう。
…実家へのにゃんこのお披露目を終え、昼御飯を済まして自宅に戻ると、またまた子猫はミャウミャウと鳴いてミルクの要求を開始し、マキは、
「はいは~い、お腹すいたのね?今お母さんが上げまちゅよ~!」
すっかり親バカにゃんげんになって世話を焼き始めました。
「…やれやれ」
私はそう呟いてその様子を見ていましたが、一方最近髪が伸びてきて自分ながらうざったくなってきた感じがするので、
「ちょっと散髪に行ってくる!」
と言って一人で近所の理髪店に出掛けました。
…その理髪店のマスターは小さなパピヨン犬を飼っていて、朝方によく散歩をさせている姿を見ていたので、私は髪を切ってもらいながら、
「マスター!…実は僕も昨日からペットオーナーになったんですよ」
と言うと、
「ほう !? …それはそれは!犬ですか?種類は?…」
マスターも興味を示してきて話はペット談義になりました。
「…犬じゃなくて猫かぁ!…森緒さん、猫好きでしたっけ?」
「いや、僕というより奥さんがもう…目の中に入れちゃってます!」
「ハハハッ!痛くないんですね !? …すっかり猫っ可愛がりなんだ!」
「ハハハッ!その通り!」
…などとおバカな話を交わしながら散髪を終えて家に帰ると、マキがなぜか興奮して待っていました。
「あなた、大変!これ見て~!」
マキはいきなりそう言って例のにゃんこ入り容器を私に見せました。
「あっ!…何これ?」
私は驚いて思わず叫んだのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます