第40話 高度治療センター

「…高度治療センターに行けって簡単に言ってたけど、けっこう遠いじゃん!」

 運転中に私がブツクサ言ってるとマキは、

「本当におまえは手がかかる子ねぇ!…でも、しょうがないよ、だってみにゃんだもん!」

 といつもの猫バカ母さんになってみにゃんを抱きしめました。


 …首都高速を降りてしばらくK市の街中を走り、ようやくたどり着いた高度治療センターは、T川の土手の道路沿いに建つ赤い外壁の診療所でした。

 入り口玄関は、自動ドアを抜けるとまたさらに自動ドアがある二重構造になっていて、他の動物連れの人らの入退を必ず確認しながら出入りするよう注意書きが表記されていました。

 診療受付けをして、診察室に呼ばれるまでの間、私たちはみにゃんにリードを着けて待合室ホールを散歩させました。

「あら~ !! お利口な猫ちゃんね~、そんなふうにお散歩できるなんて!」

 診療受付けカウンターのお姉さんがみにゃんを見て珍しげに言いました。

「はい、たぶん日本で一番旅も散歩もしてる猫ですね!」

 私はお姉さんにそう応えておきました。

 今日はここで診察を待つ人は少なく、他には大きな犬を連れたご婦人と、小型犬を抱いた女性がいるだけでした。

 …そして、しばらく経って私たちに診察室に入るようにとアナウンスが流れました。

 みにゃんを抱いて診察室の扉を開けると、中には白衣を着た30代くらいの男性医師が2人立っていました。

「…え~と、名前はみーぽん君ですね、…なるほど、ひどく腫れてますね!」

 2人のうちの背の低い方の医師が、診察台に載せたみにゃんを触診しながら言いました。

 こちらにはいつもの動物病院からカルテの写しが送られているので、医師はカルテの記載名通りにみーぽんと言ったのです。

「…腫れてるのに気がついてから3週間くらいで、こんなブラブラ袋にまで肥大しました…いつも診てもらってる動物病院の先生から、こちらで検査してもらうようにと…!」

 と、私が言うと、

「分かりました。…それではまずレントゲンを撮り、それから内容物を採取して病理学検査を行います!…今日はこちらにみーぽん君を預けて帰られますか?」

 医師はそう言いましたが、私たちは、すぐ近所から来ている訳じゃないので今日の検査診療が終わったら猫は連れて帰りたい旨を伝えました。

「…それではこの後検査をする間、お待ち頂くことになりますけどよろしいですか?…それから検査結果が出るのは来週になりますので、お手数ですがまたもう一度こちらに来て頂いて、処置についてはその時にご説明させていただきます」

 …背の低い医師は丁寧な言葉ながら無表情のままにそう言いました。

 仕方ないので私たちは医師の言葉に頷いた後、みにゃんを任せて建物の外に出たのでした。

 ちょうど時刻も昼飯どきとなり、お腹も減ってきたので食べ物を頂こうと思ったのです。

 私たちは建物前の川の土手道を少し歩いてファミレスかコンビニにでも行こうかと思いましたが、道沿いにはめぼしいお店どころか建物自体がほとんど無く、殺風景な土手の一本道をただビュンビュンと明らかに速度超過の車たちが通り過ぎるばかりでした。

 何しろ空腹感に加速度がついて来た私は半ば意地になって遠くの方までてぷてぷ歩いて行きましたが、マキは諦めて途中で治療センターに戻りました。

 …陽が陰って川風がうすら寒い秋の道を歩いてしばらく行くと、ようやくマイナーな個人経営風のコンビニ店があったので、私は食べ物と温かい缶コーヒーを買いました。


 2人分のおにぎりなどを買って高度治療センターに戻ると、退屈そうにボ~ッとした表情でマキは長椅子に座っていました。

「…飽きた」

 私の顔を見ると独り言のようにマキが呟きました。


 …結局、その日検査が終わってみにゃんが解放されたのは午後の3時を過ぎた頃でした。



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