第27話 家族揃ってお正月
…お義母さんが入院するとマキは毎日のように、勤めを終えるとがんセンターに駆けつけました。
私が早めに勤務が終わった時には私と2人で、私が遅くなる時はマキは自分で車を運転してお母さんをサポートしに行きました。
ただ、がんセンターの面会時間は夜8時までなので会社勤務が終わってからだとかなり急がねばなりません。
マキのお父さんは自動車の免許を持っていないし、妹のサチは電車通勤で都内の渋谷の会社に通っているので、平日にがんセンターに行けるのは私たちだけだったのです。
私も出来る限り早く仕事を終え、マキと猫を乗せてがんセンターに車を走らせました。
…ちなみにこの年の春に私たちは車をフォードレーザーセダンから、2代目デミオコージー (キャンバストップ仕様) に替えました。マキにも運転しやすく、何より猫にとって格段に居住性の良い車になりました。
がんセンターに到着すると、マキはお母さんのいる病室に直行しますが、私は車を敷地内の駐車場に入れると、猫にリードを着けて病院の建物周りを散歩させます。
元気盛りのみーぽんはずんずんと歩きますが、がんセンターの敷地も広いのでかなり散歩のしがいがありました。
建物の外来者用正面玄関は広々としたガラス張り仕様でした。私がみーぽんと一緒にそちらに向かうと、中のエントランスにちょうどマキとお義母さんがやって来ました。
と言っても、猫は玄関内には入れられないし、お義母さんは建物の外には出られないのでガラス越しの対面です。
それでもみーぽんが元気に散歩する姿を見ると、お義母さんはとても嬉しそうな顔になりました。
私が猫を抱いてガラスの向こうのお義母さんとマキに顔をよく見せると、2人は指先を動かしてみーぽんとじゃれ合いました。
…がんセンターでの治療は、点滴と飲み薬が中心で、お義母さんは特に問題も無く元気なままでした。
髪が薬の影響なのか急に白くなりましたが、顔色も良く、ひょっとしたら快方に向かっているようにも思えて来たほどです。
病院食が美味しく無くて嫌だと言うお母さんに、マキは煙草や食べ物をいろいろ差し入れしていました。(お義母さんは2日で1箱を吸う愛煙家だったのです)
…そんな毎日が過ぎて行って、季節は秋から冬へと変わり、やがてお正月が近くなると、お義母さんは10日ほどの外泊許可をもらって家に帰れることになったのです。
…「明けましておめでとうございます!本年もよろしくお願いします !! 」
年が明けたお正月、団地の実家に久方ぶりにお義母さんとお義父さん、サチとマキと私とみーぽんの家族全員が揃って新年を祝いました。
「う~ちゃ~ん !! ふふふっ、今年もよろしくね!」
お義母さんは楽しそうにみーぽんの頭を撫で、喉を指先でさすって可愛がりました。
「よし、初詣でに行こう!」
お義父さんがそう言って、お義母さんと猫を家に残し、私とマキとサチとの4人で近くの熊野神社に出掛けました。
…お賽銭を入れてみんなが祈願したことは今年はもちろん一緒でした。
(お母さんが治りますように… !! )
ちなみにお義父さんが家族に自分から初詣でに行こう!と言ったのは今回が初めてのことだったのです。
…団地の家に戻ると、お義母さんはおいしそうに煙草を吸い、猫はサチの服の上で寛いでいました。
「もうっ !! …う~ちゃん、私の服はあなたのお布団じゃないのよ!」
サチがそう言うとお義母さんが、
「良いじゃない!お正月なんだから …!」
と笑いました。
「いや、お正月関係無いし!コイツは毎回私の服の上で寝てるし!」
サチがそう叫びましたが、もちろん本当に怒っている訳ではなく、家族は楽しい笑い声に包まれました。
その後、私はお義父さんとテレビでニューイヤー駅伝を見ながら世間話をして、女性陣は隣の部屋で楽しくお喋りしながらいつもと変わらぬ穏やかなお正月の1日を過ごしたのでした。
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