第26話 闘病生活のスタート

 マキの家族と私が気をもむ中、お義母さんのがんセンターでの検査入院は1週間に及びました。

 ようやく検査が終わると、お義母さんはとりあえず一旦退院となり、マキが車でセンターに迎えに行きました。

 …その数日後には、マキの家族 (マキとサチとお義父さん) ががんセンターに呼ばれ、検査の結果と今後の治療についての説明などを受けに行きました。


 みんなが気になっていた検査結果は、やはりがんでした。

「肺がんだって…!」

 マキは電話で私に報告を入れました。

「…やっぱりがんだったのか!…それで、状況は?…もうかなり進行してるとか?…」

 私との会話はどうしても質疑応答のようになってしまいます。

「…ステージ4だって!」

「何か、かなり進んでる響きだなぁ…治せるの?医者は何て言ってる?」

「可能性はありますって… !! 」

「何だそりゃ !? ぶん殴ってやりたくなるような言い方だなぁ!…サチとお義父さんの様子はどう?」

「サチはともかく、お父さんはたぶんかなりコタエてると思うわ… ! 」

「…そうか、それで…お義母さんには病状告知するの?」

「国立がんセンターで今後治療を受けるのに、告知しない訳にいかないでしょう?」

「そうだね…」

 …マキとの電話での応答の中で、私は新潟の山古志村の叔父さんのことを思い返していました。

 私の母親フミの実兄で、山古志村の実家の当主でしたが、私がまだ20代の時に胃がんで亡くなったのです。

 叔父さんの時は、親族が申し合わせて当人には最後までがん告知をしませんでしたが、もともと田舎の山育ちでもっさり筋肉質の野生的風貌だった叔父さんが、療養中は抗がん剤の影響からかむくむく膨らむように太ったり髪が真っ白になったりと、たぶんかなり辛かったんじゃないかと思ったあの頃の記憶が、急に私の頭をよぎっていきました。

「それで…またすぐ入院なの?」

 お義母さんに気持ちを戻してマキに訊くと、

「とりあえずひと月くらいは週1回の通院で良いって!…その間の身体の状況を診て、たぶんまた入院治療することになると思うよ!…という訳であなたもよろしくね」

 と言うので、

「えっ?…よろしくって何を?」

 意味を呑み込めずに訊き返すと、

「お母さんの本格的な入院治療が始まったら、私は出来る限り仕事を終えた後はがんセンターに来て世話するつもりだから!…あなたも会社帰りに私を連れてがんセンターに通うのよ!」

 マキはキッパリと言いました。

「…はぁ、分かりました」

 私はマキの勢いに圧されて頷きました。


「あら、やっぱりがんだったの !? …困ったわねぇ…」

 …告知を受けたお義母さんは、他人事のようにアッサリそう言って、ついにがんセンターでの治療がスタートしました。

(可能性はあります ! …か)

 私は医者の言葉を胸中で呟いていました。


 肺がん (ステージ4) と診断されてから2ヶ月後、お義母さんはがんセンターに再入院して、ついに本格的にがん治療&闘病生活が始まりました。

 と言ってもこの時はまだお義母さん自身は全然元気で、深刻な雰囲気は全くありませんでした。

「家族の世話もしなくて良いし、好きな小説も楽々読んでいられるし、何だか申し訳無いわ… ! 」

 お義母さんは笑顔でそう言いました。

 …ちょうど季節が夏から秋に移る時期、少しずつ暑さがおさまり、夜はようやく過ごしやすくなって来た頃のことでした。


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