第39話 腫れ袋の中身

 …しかしその後の様子を見る限り、みにゃんの方は動きに支障をきたすことも無く、身体のどこかを痛がる素振りも見せませんでした。

「別に何てことも無さそうかな?」

 …私たちがノンキにそんなことを言っていると、9月に入って明らかにみにゃんの腫れが大きくなってきました。

「…アレ、膨らんで来てないか?」

「そうだね、大きくなってるね…」

 2人して不安な気持ちが芽生えてきて、さらに何日か経つと、腫れは加速度がついて肥大化して行きました。

 そうしてそれはまるで膨らんだ袋がブラブラぶら下がっているような状態になりました。

 ただ、相変わらずみにゃん自身は痛がる様子も、行動に支障が出ている感じも無さそうに見えました。

 しかしさすがに足の付け根に得体の知れない肉袋をぶら下げている姿は異様で、もはや怪しい生き物になっていました。

(う~む、妖怪ウォッチング !? …)

 という訳で、これ以上静観を続けている場合じゃないなと判断して、私とマキはまた猫を動物病院に連れて行ったのです。


「…これはまた変わったお土産をぶら下げて来ましたねぇ!…」

 …先生はみにゃんを診察台に載せて言いました。

「何なんでしょうか?…先生」

 私が尋ねると、

「さぁ……?」

 と、かぶりを振りながら先生は、

「とにかく、この腫れ袋の中に何がたまっているのか?…ですね」

 と言って、その部分に注射器をブッ刺すと、シリンダーを引いて中身の抽出を試みました。

 しかしなかなか中の物は出て来ず、思うようには行かない様子です。

「う~ん…水みたいなものが溜まってるのかと思ったんだけど、もっと粘性の高いものですね!…触感がぶよぶよしてるので、分泌系の腫瘍かなぁ?」

 先生の言葉に、不安感を煽られた私が、

「…まさか、がんとか…ですか?」

 と訊くと、

「いや、それは…」

 …先生は言葉の途中で顔を曇らせてしまいました。

「…なら、とにかくその腫れの中身を、手術して取って頂けないですか?」

 みにゃんを見ながら、思わずそう言うと、

「…う~ん、気持ちは分かりますが、以前にもお話ししたように、外科手術となると個体に大きな負担がかかります!…腫瘍の内容物をよく検査してから治療しないと…いたずらに身体を傷つけるのは良くありません」

 先生は私を諭すように言いました。

「…しかし、私のところも含めて、町の動物病院ではあまり詳細な検査が出来ないですねぇ…」

 顎に手をやりながら先生は言葉を続けました。

「それじゃあどうしたら良いんですか?」

 マキと私が同時に訊くと、先生は視線をまっすぐ私たちに向けて答えました。

「紹介状を書きますから、高度治療センターに行って下さい!」


 …という訳で、翌週の平日の朝、私とマキはそれぞれの会社から有給休暇をとり、車で首都高速を走っていました。

 みにゃんは後席の四角いカゴの中でへにゃ~んと寝ています。

「悪い病気かも知れないと思って、俺たちが仕事も休んでこんなに心配してるってのに、コイツは全く何の緊張感も無いよなぁ…!」

 ハンドルを握りながら私はマキに言いました。

「しょうがないよ!…だって、猫だもん!」

 助手席のマキは苦笑しながら言いました。

 …動物病院の先生から紹介された高度治療センターという施設の所在地はK県のK市で、地図で確認すると私たちの家からは車を飛ばしてたっぷり2時間はかかる距離にありました。

 …東京ベイエリアの景色の中を、車は高速湾岸線から羽田を経由して横羽線を南に向かって走り抜け、都県境を越えてK県に入って行きました。







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