第31話 激走!全力猫じゃらし

 …哀しみの冬を乗り越え、お彼岸も過ぎると、お日様の温もりがほわほわと街を包んでまた新しい春がやって来ました。

 うららかな日々の到来とともに、み~ぽん改めみにゃん君は、私たちの顔を見るとお尻をムズムズ動かして、

「お外に行きたい~!お散歩お散歩~!」

 とアピールしています。

 …という訳で週末、例によってやる気にゃんにゃんのみにゃん君を私たちは江戸川に連れて行きました。

 河川敷の草のグラウンドにはタンポポの花がポチポチと…土手の斜面には所々に菜の花が固まって咲いていました。

 私はみにゃんをグラウンドに放し、川べりから丈の長い葦を一本折って、穂先だけ残して葉をむしり、長尺の猫じゃらしを作りました。

 猫の鼻先で葦の穂先をチャラチャラ動かすと、さっそくみにゃんはハンティングポーズをとって食い付いてきます。

 穂先を揺らしながらグラウンドを駆け出すと、みにゃんもダッシュしてそれを追いかけて来ました。

 草の上をかなり全力で走ると、みにゃんも野生動物全開パワーで猛追して来て、最後に小さく飛び込むようにジャンプして葦の穂先にタックルをかまし、前足で葦を抱え込みながら草の上で1回転して穂先を咥え、ついに私から葦を奪い取りました。

 …息を切らしてみにゃんを見ると、明らかにドヤ顔になった後に、咥えていた葦の穂先を口からポイッと放しました。

 それは明らかに

「ボクもう1回やる !! 」

 のサインです。

 結果、私はみにゃん君のためにその後何度も葦を持って「全力走猫じゃらしチェイス」をやって、気が付けばみにゃん君は大満足のドヤ顔ざんまい、私の方は息も絶え絶えのヘロヘロ状態になったのでした。

 その様子を傍らでマキは面白おかしく眺めていたのかと思いきや、

「去年の春は公園でお母さんが雑草抜いてみにゃんを猫じゃらししてたのに…」

 何と思い出ブルー状態になっていました。

「あの時のお母さん、とっても楽しそうだったよね!…ねっ !? 」

 マキが泣き出しそうな顔で同意を求めるので、

「はぁはぁ、そ、そうだね、ぜ~ぜ~… ! 」

 全力走直後の私は必死にそう応えたのでした。

 …河川敷には他にもカラスや小鳥や野鳥なども入れ替わり飛んで来てはグラウンドの草上をちょこちょこ歩き回ったりするので、みにゃん君はいちいちそれらに興味を引かれてハンティングポーズをとっていました。


 …という訳で春の江戸川河川敷で猫はハイになり、マキはブルーになり、私は疲労困憊になった1日でした。


 そして桜の花も散ると街が青葉に萌え、さらにツツジの花が咲き始めれば、いよいよゴールデンウィークが近づいて来ます。

 休日には会社と自宅がある松戸市には居たくないので、私はすでに家族で旅に出る計画を心の中にプログラミングしていたのでした。


 …太陽の光も、街にそよぐ風も、若葉も草の色も、全てが心地良い季節の中にのほほんとするうちに、あっという間にゴールデンウィーク休みになりました。

 私は連休前日の夜のうちに、マキとみにゃんを車に乗せて素早く家を出発し、松戸市から離れました。

「…ところで、今回は何処に行くの?」

 助手席のマキの質問に、

「福島、浜通り!…」

 私は言いました。

「ふ~ん…で、何故そこ?」

「何となく!」

「はぁ…理由無しかい !? 」

「いや、理由はある!」

「えっ、…どんな?」

「そこならゴールデンウィーク中でも渋滞や混雑が無さそうだから…!」

「……… !? 」

 というような夫婦の会話とともに車は柏インターから常磐道に入って北へと向かったのでした。


(※注 このエピソードは東日本大震災が起こる以前のものですので読者ご了承下さい)




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