第32話 渚のみにゃん
…夜の常磐道は順調な流れで快適なドライビングでした。
まもなく車は利根川を渡って茨城県に入り、守谷サービスエリアを過ぎれば谷和原付近の切通し区間を抜けて田んぼが広がる田園風景となるのですが、この時間は夜の闇に塗りつぶされてただのっぺりと暗がりだけが続いていました。
ハイウェイの右側の田んぼの上をつくばエクスプレスが高架レールで走っていて、反対方向(東京方面)に向かう電車が中空の闇間を光の矢となって流れて行きました。
桜土浦インターを過ぎると、右手には土浦市街の灯りが、左手には夜空の下に影絵のような筑波山の黒いシルエットがM字形に浮かんでいました。
夜のドライブ風景もなかなか渋い味わいだね…と隣りのマキに言おうとしたら、すでにマキは気持ち良さそうにクカ~… ! と寝ていました。
という訳で私は1人孤独なままに車を飛ばして、途中友部のサービスエリアに立ち寄りました。
…トイレを済ませた後、車からみにゃんを引っ張り出し、リードを着けて散歩させます。
時刻は夜の10時頃でしたが、大型連休入りのこの日は多くの人々がサービスエリアを利用していて、例によってみにゃんの周りには猫好きギャラリーが寄って来ます。
「猫が散歩してる~!」
「可愛い~っ !! 」
「犬みたいだな」
「触っても大丈夫ですか?」
いろんな人がいろんな言葉を投げかけてきます。
しかし今夜は正直私もいちいち応えるのが面倒くさかったので、意地悪を承知の上で言いました。
「ウチの猫はかなりの気分屋なので、手を出すとその時の機嫌しだいでいきなり咬みます!…図体がデカいので殺傷力抜群ですよ!」
…そして無言になったギャラリーたちが一歩後退した中を、みにゃんは悠然とマイペースでサービスエリア散歩を続けるのでした。
みにゃんの散歩を終えると、私は再び車を発進させて夜の常磐道を北上します。
…気分良く走って那珂川を渡り、日立南太田インターを過ぎると、ハイウェイは急にきつい登り勾配になり、トンネルの連続する山間部に突入しました。
高速道路のトンネルというのは単調なので、特に長い時間の走行だと途中でだんだん眠くなってきます。
私は強力ミント系のガムを噛みながら車を飛ばしてトンネル区間を抜けると、いつの間にかハイウェイは茨城県から福島県に入りました。
スパリゾートハワイアンがあるいわき市を過ぎて、常磐道終点の広野インター (このエピソード時点) から国道6号線に降りると、さらに北へ向かいます。
「♪北へ走ろう~♪思い出連れて~♪」
…夜中の一般国道を北に向かうと、何となく新沼謙治の演歌の歌詞が鼻歌まじりに出て来ました。
しかしそうするうちに、ガムを噛んでも鼻歌をとばしてもついに抗いきれないくらいに眠気が襲って来たので、私は国道端に現れてきた「道の駅ならは」に車を入れました。
シートを倒し、エンジンを止めると、私は急降下で眠りの底へと落ちて行きました。
…どっぷりと熟睡したら翌朝は突然プチッと目が覚めました。
外はすっかり明るくなり日が射していましたが、時刻は7時を過ぎたばかりで、まだ道の駅の建物や売店は開いていない様子です。
助手席のマキはぐっすり眠ったままでした。
…とりあえず私は起き出してトイレに行きました。
営業時間前の道の駅は人もほとんどいないので、みにゃんを少し外で歩かせた後、缶コーヒーを飲んで出発。
さらに北へ向かいます。
…福島県の東側、太平洋に面した国道6号線沿いのエリアは通称「浜通り」と呼ばれているのですが、実際に車で走ってみると、北に向かう国道の右手には丘陵や松原があって海はほとんど見ることが出来ないのでした。
丘陵地の緑の谷間や田畑の中を行く変化無き田舎道をフロントガラスに見ながらの運転にも少し飽きてきたので、福島原発の前を過ぎてから国道を右にそれて海岸方向へとハンドルを切りました。
テキトーな方向感覚だけで丘を越え田畑を越え松原を越えてずんずん進んで行ったら、陽光きらめく太平洋が広がる砂浜に出ました。
「おぉっ!海だぜっ !! 」
潮騒の音にちょっと気分が高揚しつつマキの顔を見ると、ようやく目を開けて眠りから覚めてはいましたが、表情はまだどよ~んとしていてまだまだ車内でウツウツしたい顔でした。
…砂浜に猫を連れて行って放すと、ザザザザ~ン !! と押し寄せて来る波にビビってみにゃんの目がドングリ眼に変化しました。
波打ち際のあちらこちらには幅200メートルくらいにテトラポットを積んだ壁があり、ドド~ン !! と波の響きを聞くと、みにゃんは海の見えないテトラ壁の後ろに素早く走って逃げて行きました。
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