奇跡の猫 みにゃん
森緒 源
第1話 春の夜の訪問者
私と妻マキは15年前から現在の借家に住んでいます。
借家は2DKの古い平屋の一戸建てで、地元の知り合いの不動産屋さんの仲介で、それまで住んでいた市内の団地から引っ越して来たのです。
大家さんは中塚さんという人で、お宅はすぐ隣です。
その頃の大家さん宅は、中塚さんご夫婦とおばあちゃん、それに小学生のお兄ちゃんと妹さんの5人家族でした。
…それは借家に入居して2年くらい経った春のある日の夜のことでした。
私とマキはすでに和室に布団を敷いてまもなく就寝するところでしたが、その時「コツコツ !」と玄関の扉を小さく叩く音が聞こえたのです。
「…誰だろう?…こんな夜中に」
私がそう呟くと、マキが起きて玄関にしぶしぶと出て行きました。
「…どなたですか?」
玄関の方でマキは突然の訪問者にとりあえず応対し、私は布団の中で眠気のままにポヤンとしていました。
…すると少ししてマキはあたふたと戻ってきて言いました。
「あなた、大変っ!」
さらにその表情も何やら興奮気味となっています。
「…ん~ !? 何が起きたの~?」
私が眠気顔のままに話を聞くと、訪ねて来たのは大家さんのお嬢ちゃんだったのです。
彼女は今日、学校帰りに段ボール箱に入れられた捨て猫を拾って来て、飼いたいと訴えたところが、大家さんの家ではすでに犬 (こいつがまたよく吠えるヤツなのです) を飼っているので猫はダメ!とお母さんに拒否され、元の箱に返してきなさい!と言われたとのこと。
しかし彼女はその不憫な子猫を返し切れず、庭の物置に隠して何とかしようと思ったのでしたが、結局やっぱり何ともならずに最後は困って私たちに貰い手になって欲しいと訪ねて来たのでした。
「ねぇ、どうする?」
…マキは私に訊きましたが、猫大好きなマキのその眼はすでに期待度Maxの少女漫画風キラキラ星散りばめ瞳になっていました。
「…どうするったって、ウチは借家なんだから勝手に猫なんか飼えないよ!…大家さんの許可が無いとねぇ」
私がそう答えると、マキは明らかに落胆の色を浮かべましたが、
「可哀想だが、そう伝えてお嬢ちゃんに帰ってもらって!…」
私はさらにそう言いました。
…という訳でお嬢ちゃんはガックリと肩を落として自宅に戻り、マキは
「何だか冷たい仕打ちをしたみたいで嫌だわぁ…!」
と言いながら布団にくるまったのでした。
…ところがそれから少しして、私たちがまさに寝入りそうになったその時、再び玄関の扉をコツコツ叩く音がしたのです!
…2人で起きて行ってパジャマのまま扉を開けると、何と先ほど肩を落として帰ったはずのお嬢ちゃんは予想外の行動を取って再度私たちの前に立っていたのです。
そしてその手には小さな小さな子猫が乗っていたのでした。
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