第33話 激闘!猫VS蛇

 …春は東北地方の人々にとって、一年で最も嬉しい季節です。

 野山にパァッ ! と花が咲き、大地が緑に萌え、川に魚が泳ぎ出し、軒先にツバメがやって来ます。

 いろんな生き物や命が復活し、再生して自然界が華やかな彩りを添えて人々を迎えてくれる時…!

 しかし中にはあまり歓迎されない者もいたようです。それは…… !?


 私たちは海岸線から離れないようにしながら、さらに北上を続けて相馬市に入りました。

 カーナビの地図画面を見つつ海岸線近くを進んで行くと、やがて松原の中をまっすぐ続く一本道になりました。

 …そしてだんだんと松原の幅が狭まり、右手に太平洋の海原が、左手には大きな沼のように見える入江が現れて来ました。

 そこは松川浦という内海 (潟海) で、思いがけずも目に目映い景勝地でした。

 …私は道路脇に車を停めて、みにゃんを抱いて外に出てみました。

 何キロか続いていた松原が途切れたところは、道路を挟んで右に太平洋、左に松川浦…その向こうには背景に阿武隈山地の山の稜線が青く霞んでいました。

 道路脇から草地の中を松川浦に向かって遊歩道が続いていて、先を見ると松川浦には小さな小さな島があり、どうやらそこに行ける道のようです。

「私は車で本を読んで待ってる…」

 と言うマキを残して私とみにゃんは行ってみることにしました。

 …みにゃんを抱いててぷてぷ歩くと、途中で向こうから来たおば様観光客2人とすれ違いましたが、その時彼女らの会話が耳に入りました。

「…う~イヤだ!気持ち悪い!」

「何であんな所に居るのかしらね !? 」

 …何だろう?と思いつつずんずん歩いて行くと、しかしすぐに意味が分かりました。

 島には小さな橋が架けられ、歩いて渡れるようになっていましたが、その橋の手前の遊歩道脇の砂地に、青大将がトグロを巻いて観光客をお出迎えしていたのです。

「なるほど…お前のお出迎えはあまり喜ばれないだろうなぁ…」

 …別に遊歩道上に居座っている訳でもないので、素通りして行くぶんには支障はまぁ無いのですが、…その時私はキラ~ン !! と面白いことを思い付いたのです。

「みにゃ~ん!」

 私はニヤリと笑みを浮かべつつ、猫にリード紐を装着しました。

 そうしてみにゃんの身体を手に抱えると、「えいっ !! 」と軽く放り投げました。

 猫は狙い通り、青大将の鼻先50センチの砂地にストッ ! と着地!

(どんな展開になるかな?)

 私はワクワクしながら固唾を呑んで見守ります。

 …対峙する猫と蛇。

 しばらくの間、2匹はお互いに

「 !? …何だコイツ?」

 という顔で見合っていましたが、そのうちにみにゃんが蛇の頭に前足を伸ばして、チョイチョイ!と猫ジャブをかましました。

 すると蛇は、

「何すんだコノヤロー !! 」

 という感じで鎌首をズイッ ! と持ち上げたのです。

(面白くなってきたぁ !! )

 期待した展開に私の心は踊り始めました。

 …という訳でついに猫VS蛇バトルファイトの火蓋は切って落とされたのです。

 鎌首を持ち上げて威嚇する蛇を、不思議な物を見るようにしばらくの間小首を傾げて眺めていたみにゃんでしたが、ふいに蛇の頭にパシパシッ ! と猫パンチを2発叩き込みました。

「おおっ !! 」

 …すると蛇は怒ってさらに鎌首を一段高く持ち上げ、頭の下の喉の部分をわずかに広げてコブラ式威嚇態勢を追加しました。

 しかしみにゃんは何のためらいも見せずにパシパシパシッ ! と猫パンチをさらに一発追加してぶっ叩きました。

「いいぞみにゃん !! 行け行け~っ!」

 私はにわかにリングサイドにかぶり付いたセコンドおやじのようになって叫びました。

 すると蛇は叩かれた頭を引っ込め、今度は尻尾の方を持ち上げて来ました。

 そして尻尾を少し膨らませてみにゃんの前に持ってくると、小刻みに震わせながら威嚇します。

「これは !? …ガラガラ蛇式威嚇スタイルだ!」

 しかしみにゃんはもはや楽しそうに、膨らんだ蛇の尻尾にも猫パンチをお見舞いしたのでした。

 パシッ、パシパシッ !!

 蛇は尻尾を下げ、鎌首をまた上げました。

 パシッ、パシパシッ !!

 すかさず猫パンチ!

 そして蛇は鎌首下げてまた尻尾ガラガラ威嚇 !!

 パシッ、パシパシッ !!

 何だかすっかりモグラ叩きゲームのようになってきました。

 …そんなことを2~3分繰り返した後、みにゃんはくるりと青大将に背を向けて、トコトコと私の足元に帰って来たのでした。

「…飽きたんか~い !! 」

 そう叫んでみにゃんを抱き上げ、残された蛇を見ると、頭も尻尾も下げてスルスルと私たちから遠ざかって草藪の中に去って行きました。



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