第10話 チェリー爆食い…からの温泉

 …さて、肝心のさくらんぼ狩りは、同地区の中でその日ごとにフリーの客を受け入れる担当さくらんぼ園が替わるシステムのようでした。

 私たちは購入した券を持って管理センターに指示されたさくらんぼ園に車で移動し、園の入り口で待っていた農家のおじさんに渡して中に入りました。

「おや、遠いところからチビにゃんこ連れて来たんか~ !? ご苦労様だねぇ!」

 券を受け取りながら、おじさんは猫を抱いた私を見て言いました。

 …園内には何十本かの木があり、幹から八方に伸びた枝の繁った青葉の間には、赤い果実が鈴なりに付いています。

「寒河江のさくらんぼは日本一美味しいからねぇ!…たくさん食べてってよ!」

 おじさんに言われて私たちはさっそくさくらんぼをわしわし採ってがしがし食べ始めました。

 みーぽんは容器に入れて木の下に置きました。

 …ここは基本的に個人客しか来ないようで、旅行会社のツアー客、観光バス、団体客などが入らず、まったりゆったりマイペースでさくらんぼ狩りが出来ました。

「あま~い!」

「美味しいね !! 」

 私たちは大喜びしながら木から木へと移動しつつパクパクさくらんぼを口に入れて行きました。

 その果実は木によって、成っている位置によって微妙に甘味や酸味、食感に違いがあり、現地でこうして食べてみるとそれを実感できました。

 そしてそれは全くもって至福の時間でした。

 …結局私は夢中になってひたすらさくらんぼを食べまくり、気が付けばすでにここで一時間が経過していました。…マキはとっくにお腹を満たしてみーぽんを抱いて呆れた顔で私を見ています。

 何しろ朝御飯も摂らずにたださくらんぼのみ食べ放題な訳ですから、夢中でお腹に詰め込んだ今、気が付けばすでに吐く息もさくらんぼフレーバーとなり、膨らんだ腹のヘソからはさくらんぼ果汁が滲み出ていました。

「ゲフッ!…食ったぁ~!」

 と言いつつ満足して足元を見ると、みーぽんは容器の中で丸くなってスヤスヤ眠り猫になっていました。


 …果汁満タンタプン腹をさすりながらさくらんぼ園を出て、私たちはまた車をスタートさせました。

 …しっとりと緑に囲まれた寒河江市の上空は梅雨曇りで、周辺に見える山々の頂きは雲に隠れていましたが、日差しの無いのがかえってドライバーには暑さが抑えられて快適な走行環境となっていました。

 …寒河江の街の西側から国道287号線を南に向かうと、最上川の橋を渡って間もなく「道の駅おおえ」があったので車を入れてみました。

 ここはごくオーソドックスな道の駅で、地元の農産物や特産品の売店、うどんや山形名物玉こんにゃくを出す食堂などがあり、すでに多くの客で賑わい始めていました。

 …しかし先ほどさくらんぼを山ほど詰め込んだタポ腹の私は、何だかお腹が緩くなりそうな気配がしてきたのです。

 不安を感じながら道の駅に置いてある観光パンフなどを取って見ると、この道の駅の奥に隣接して、日帰り入浴の出来る温泉施設があるのを発見したのです。

「…ゆたゆたとお湯に浸かってお腹を暖めながら寛ぐのも良いなぁ…!」

 と思った私は、さっそく車を移動させました。

 施設名称「舟唄温泉テルメ柏稜」は山形県大江町の町営施設で駐車場も広く、日帰り温泉浴場の他に宿泊用客室にレストランもある立派なものでした。

 …マキが、朝から温泉はちょっと遠慮して車で休みたいと言うので、私だけタオルを持って温泉に行きました。

 三角屋根の平屋の建物に入ると、ロビーに入浴受付カウンターがあり、お金を払うと、何と入浴料は300円でした。

 建物内の廊下を歩いて奥の浴場に行ってみると、温泉は内風呂のみでこの時は露天はありませんでしたが、特筆すべきはその泉質で、若干の硫黄その他の成分を含んだそのお湯は季節によって、さらにその日の天候や気温によって湯の色が青みがかったり白濁したりまたは澄んだりと変化するのです。

「七色の湯… !? 」

 施設内の温泉の説明書きにそう記してありました。







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