第11話 通りすがりの Snake Memory

 …という訳で、すでに地元の常連さんらしき入浴客が何人か浸かっている浴槽に身体を沈めてみると、

「熱っちい~っ !! 」

 予想外の高温泉なのでした。…しかも心なしか常連さんらがその時私にニヤリとした顔を向けた気がしたのです。

「こりゃあとてもへよ~んなんて感じのお湯じゃないぜ!」

 私は心中で気持ちを切り替え、舟唄温泉に対する闘志を燃やし始めたのでした。

 気合いを入れ直して首までお湯に浸かってじっとしていると、最初はちょっとその熱さにガマンが必要でしたが、そのうち徐々に肌が湯温に慣れてきました。

「へぁ~~っ… ! 」

 …身体がお湯に馴染んでくるにつれ、気持ちがリラックスしてまさに温泉の効能成分がじわじわじわ~と肌に染みてくる感じがします。

「これが温泉の良さだよねぇ…!」

 ひとり満足してじわじわあつ湯に浸かり、お腹も暖まってポニャリン顔でお風呂から上がり、腰に手をあててコーヒー牛乳を飲んだ後、私は再び車を発進させました。


 国道287号線は最上川の流れる谷に沿って南北に走る快適なルートで、私はこの時の愛車である白いフォードレーザーセダンをマイペースで飛ばして行きます。

 横を見るとマキは助手席のシートを少し倒してお休み中、後部席の容器みーぽんも丸くなって眠り猫になっています。

 もちろんマキも運転免許証は持っているのですが、私と出かける時は全くハンドルを握ろうとしない人で、たいてい (特にロングドライブのとき)の場面こうしてへよんと寝ているのです。

 …寒河江から大江町~朝日町~白鷹町とスルスル走って長井市まで来ると、山間から開けて米沢盆地の比較的平野なエリアになりました。

 長井の市街を過ぎると、今まで国道287号線に寄り添っていた大河、最上川が離れて行きます。

 ちなみにこの最上川は東北地方の代表的な大河の一つですが、これだけの一級河川としてはちょっと意外な一面があります。

 それは、川の始まり(水源地)から延々と流れて海に注ぐ河口まで、山形県の中だけを行く川なのです。…途中、川が県境になることも無いのです。

「…と言っても、地理に興味の無い人には、だから何?っていうムダ知識だな…」

 私は運転しながら心中で一人ツッコミを入れたのでした。

 …全く何の変哲も無い田んぼばかりののどかな景色の中を走って、車は川西町に入りました。

 ここは何年か前にマキと訪れたことがあるところです。

 町の郊外の丘陵地に「川西ダリヤ園」という、世界中からの品種を集めたダリヤの花を栽培展示している屋外花園があり、花が好きなマキの希望で見に行ったのです。

 その時マキは上機嫌で色とりどりのダリヤを見ていました。

「わぁ~ !…綺麗!」

 ひときわ鮮やかな花の香りに誘われ、咲き誇る花に顔を近付けたその時!

 花株の根元から突然にヘビ(ヤマカガシ)がにょろんと出て来たのです。

「キャアァァァァァッ !! 」

 マキは絶叫を上げ、思わず垂直ジャンプしたのでした。

 さらに言えば私が見たその時の跳躍力は常人とは思えぬほど高く素晴らしいものでした。

 …そんなことを思い出していると、助手席のマキが目を開けました。

「…う~ん ! 今どのへん~?」

「以前訪れた思い出の川西町だよ!」

 私が答えると、マキは一気に目覚めて叫びました。

「ひ~っ!蛇付きダリヤ園 !? 」

 …どうやらヤマカガシジャンプはまだマキの中ではトラウマになっているようでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る