第35話 夏の清流思川へ
…旅から戻り、ゴールデンウィークも終わると、日射しがだんだんと強まり、初夏の陽気になりました。
やがて天気が崩れて梅雨入りし、豪雨や雷雨が通り過ぎればもう太陽ギラギラな真夏の到来です。
夏はみにゃんにとってはキツイ季節です。
何しろ猫は肉球でしか汗をかかないので、暑い夏は人から離れてひたすらグッタリのびています。
基本的にみにゃんは生まれてから今まで、ず~っと人間の手でのみ育てられて来てるので、全く人を恐れぬ人なつっこい甘えん坊にゃんこになりました。(ただし、ギャ~ギャ~はしゃいでドタバタうるさい子供らは嫌いです)
それがもう暑い夏はひたすら怠惰にぐた~と寝ていて、呼んでみても無反応で来やしないといった状態なのです。
夏はまた体毛が生えかわる時期なのか、抜け毛が多かったり、さらには体皮にオデキが出来たりして、私たちも猫にいろいろ神経を使う季節なのです。
「…そろそろみにゃんの毛すきをしないとなぁ…身体も洗ってやらないと」
私がそう言うと、マキは顔色を曇らせて応えました。
「だけど、みにゃんはお水に濡れるのが大嫌いじゃない!…無理やり洗おうとすると必死に抵抗するから、いつもこっちの手が傷だらけの流血騒ぎなんだもの!…毛すきだって大人しくやらせてくれないし!…」
「う~ん… ! 」
そう言われると私もにわかに返す言葉が無いのでした。
しかし何もせずにそのままで良いはずもありません。
…考えた末、強行手段を取ることにしました。
「よし、今度の週末は栃木に行こう!」
私はマキに言いました。
…という訳でその週末、私たちの車は素早く自宅を出発しました。
途中、野田市、境町、野木町を通過して、現在車は栃木市街を抜け、都賀から粟野へと思川に沿って山あいに向かっているところです。
…思川 (おもいがわ) は足尾山地を源に栃木県南部を下って利根川に注ぐ一級河川で、夏場は鮎釣りや渓流釣りの人々で賑わう自然豊かな憩いの川なのです。
…粟野の街並みを過ぎると、視界の両側に山が迫り、思川沿いの県道は谷間の農村風景の中を山間の奥地へと向かって行きます。
だんだんと谷間が狭まり山肌が近くなると、思川は早瀬の渓流となり、県道脇にはこの地区の特産物などを並べる売店や直売所がぽつぽつと見受けられました。
ちなみにどんなものを売っているかというと、
① キノコ類
② 山菜
③ 農産物
④ 鮎やヤマメ等渓流魚の塩焼きなど
⑤ 毒蛇マムシ (一升瓶に生きたまま入っている)
…ざっくりとこんな感じです。
「活きマムシを売ってるってことは、この辺の人はマムシ酒を造るのかな?」
…私の両親の実家がある新潟の里では、生きた蝮からマムシ酒を造る風習があるのでちょっと興味をひかれましたが、実際にはそれは何しろ良い子が真似出来る代物じゃないので、お店の中は覗かずに私たちはさらに山中へと川をさかのぼって行ったのでした。
…山間部の思川渓流沿いにはまばらに人家が点在し、畑地もあります。
思川上流の谷間は粟野町 (現在は鹿沼市に編入) の粕尾という地区で、道沿いに多く見られるのは蒟蒻 (コンニャク) と蕎麦です。
そのソバ畑は今日は細かい白い花をつけていました。
その中をずんずんと坂を上り、川の流れを横目に見ながら車は進んで行きます。
…今日の私たちの目的地は粕尾地区の最奥、粕尾峠へと山を上がる県道の急勾配の途中の左手にある小さな公園でした。
「着いたよ!」
私は県道から左に下がって渓流べりの公園の駐車場に車を入れました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます