第37話 一周忌法要の冬

 師走の中の一周忌…その日は昨日まで吹いていた木枯らしも止んで、弱いながらも冬の日射しがやわやわとセレモニー会館周辺に注がれていました。

 お義父さんとサチ、茨城のお義母さんの身内、その他親族の方々が黒い礼服に身を包んで集まりました。

 私とマキはいつものようにみにゃんを愛車デミオに乗せて行きました。

 お義母さんの葬儀の時にもお世話になったセレモニー会館の駐車場に車を停めると、会館スタッフのお姉さんが目ざとくフロントガラスの中のキャプテンみにゃんを見つけました。

「あら~っ !? 猫ちゃんがいる!可愛い~っ !! 」

 マキは猫にリードを着けて外に出すと、お姉さんに言いました。

「すみません、これは故人がとても可愛がってた猫なんで、供養のつもりで連れて来たんですよ!ちょっと外を散歩させても良いですか?」

「もちろんかまいませんよ!…まぁ~っ、堂々として凛々しい猫ちゃんねぇ、お名前は?」

 お姉さんはしゃがんで猫の頭を撫でながら言いました。

「みにゃんと言います」

 私が答えると、お姉さんは嬉しそうに、

「みにゃん君はご家族みんなに愛されて来たからこんなに立派になったのね!…良かったわねぇ」

 と猫に話しかけていました。


 …その後、セレモニー会館での一周忌法要はしめやかに行われ、親族一同は会場を移し、割烹で食事をとりました。

「…一年なんてあっという間ねぇ…」

「マキちゃん、サッちゃん!…大変だと思うけど、お父さんがガックリこないように支えてあげないとね!」

 料理を頂きながら、マキとサチ姉妹は叔母さんたちから、女性目線での言葉や励ましを貰っていました。

 …しかしそれを見て、私の胸中は少しばかり複雑な思いを感じていました。

 お義母さんを亡くしてガックリ来ているのは実はマキだったからです。

 一緒に居れば、さすがに鈍感な私でもそのくらいは解ります。

 しかし私がそれを何とかしてやれる手段は何も無いのです。


 やはり一周忌法要というのは、家族にとっては切ない1日だったのでした。


 …一周忌法要が済んで、多忙な年末が過ぎると、明けましておめでたいお正月が例年通りにやって来ました。

 私とマキは、元旦にはまず私の実家を訪問して私の両親に挨拶を済ませ、次に私の弟の家に行って嫁さんと甥っ子姪っ子にお年玉を上げ、それから東京の江戸川区に居る叔母さんの家に伺い新年の挨拶と、お正月のパターンはおおよそ決まっています。

 1月2日にはマキの実家に2人で伺い、お義父さんと、仏壇に入ってしまったお義母さんに挨拶、それからサチを連れて私とマキとみにゃんの計3人と一匹が、車で栃木県の佐野厄除け大師に初詣でに行くというのがお決まりになっていました。

 …そしてその年、私が佐野厄除け大師の初詣でで引いたおみくじは「大吉」でした。

(おおっ !? 今年は何か良いことがあるのかな?…)

 参道にズラリと並ぶたこ焼、じゃがバター、お好み焼きなどの露店を眺めて歩きながら、私はちょっと気を良くしてほくそ笑んでいました。

 …しかし、後々の結果から言うと、その年はみにゃんの身に大事件が起きて、波乱の年となるのです…。


 さて、マキの学説通り、寒い夜は布団にもぐり込んで来て、ゼロ距離のままマキの胸でずっしりと寝ているみにゃん君ですが、この時の体重は7、5キロあったので、夜中に見るマキの寝顔はときに眉間にシワを寄せていました。

「う~む…」

 何故だかみにゃんが寝床にするのはマキの方なのです。

 おそらく女性の身体の方がクッションが柔らかく、かつ顔を胸の谷間に置くと収まり良く寝られるからではないかと思われます。

 みにゃんの気分の問題なので何とも言えませんが、猫は常に自分が最も快適な場所を見つけてそこに落ち着く生き物ですからね。

 …などと思っていたら、やがてみにゃんは身体が充分に温まって暑くなったのか、のそのそとマキの布団から出て行きました。

 そして畳の上で「くぁ~ふ !! 」と大きくアクビをすると、ブルブルッ ! と身体を震わせ、ペタンと横になって毛繕いを始めました。

「……… !? 」

 猫のマイペースぶりに羨ましさを覚えつつ、眠くなったのでうつうつ寝ようとすると、

「ううっ、うう~ん… ! 」

 マキのうめき声が聞こえました。

 見ると、毛繕いを終えて再び身体が冷えてきたらしく、みにゃんが布団に戻ろうとしてマキの顔面上を7、5キロの体重で踏んづけながら布団端を頭でツンツンしていたのでした。

 マキが顔を歪めながら両手で掛け布団を持ち上げると、猫は当然のようにするすると中に潜り、身体の向きを変えてマキと対面するように胸の上でスフィンクススタイルをとると、顔を落として「プフッ…」と小さく息を吐き、ゆっくりと眠りにつきました。

「…これだけ傍若無人でも許されるみにゃんって!…う~む… ! 」

 私はいみじくも羨望の目で猫を見ながらウツラ寝をする冬の夜でした…。


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