サンタさんのブーツ
私事ですが、ふと話したくなったので聞いて下さいませんか。たまに頷いて相づちを打ってくれたら嬉しいですが、聞き流しているだけでも構いません。誰かに聞いてもらいたいだけだと思うので、そこにいてくれるだけでいいのです。
幼い頃、サンタクロースは一人で世界中の子供たちのクリスマスプレゼントを用意しているのだと思っていました。子供の頃のお話です。世界なんて考えていなかったのかもしれないし、日本の、なんて規模よりもっと小さい。私のお友達はみんな、くらいの認識だったのかもしれません。それでも、テレビでクリスマスの音楽が流れ始める季節になると毎日カレンダーを見て、近付く12月25日を待ちわびたものでした。
「今年は何が欲しいの?」
「ママとパパにはないしょ。サンタさんだけにおてがみかくんだもん!」
覚えたてのひらがなで、折り紙に欲しいものを何度も何度も書きました。鏡文字のように間違ったひらがな。中を見られないように小さく小さく折りたたんで、テレビの裏に隠しました。隠し場所を知っている両親は、その紙を見て解読したのでしょう。しかし子供の頃なんて気分はすぐ変わるもの。毎日欲しいものも変わります。テレビのコマーシャルで宣伝されればお人形が欲しい。お友だちが持っているから、お絵描きセットがいい。やっぱり、ママとお揃いのリボンだったらいいな。
結局書いたものでも、欲しかった物でもないようなプレゼントが置いてありました。それでも私は喜んで受け取って遊んでいました。
どうみても日本人ではないサンタクロースのおじさんが日本語を読めるのは何故だろう。小さな頃は不思議にも思いません。疑問は随分大きくなってから抱いたものでした。
ある年、クリスマス近くなると「何が欲しいの?」と聞いてくる父と母が嫌になりました。まだ小学生にあがる前のことです。
「内緒!絶対に言わない。だってサンタさんは子供が本当に欲しいって思うプレゼントは分かるんだもん」
なんて言って。父は困ったでしょうね。その年は本当に一度も言いませんでした。気持ちは伝わると信じて、手紙も書きませんでした。
クリスマスの朝、枕もとを見ると何もありませんでした。枕の下やリビング、家中ばたばたと走り回ってプレゼントを探しました。それでも何も見つかりませんでした。とても悲しかった。何が欲しかったのかなんて、もう覚えてはいません。けれど、とても。とても悲しかったことだけは覚えています。
近くのスーパーで見かけた赤いサンタクロースのお菓子の詰め合わせが申し訳なさそうにカーテンの近くに置かれていました。
私はそれをぎゅっと抱きしめて泣きました。そして大切に、大切に、少しずつ食べました。
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