食物連鎖


 『水陸関係なく、生き物は食べたり食べられたりという関係性のもと成り立っています。生態系の頂点と言われる鷹や鷲などの大型鳥類がいる地域は、生態系の質や量が良いとも言われるのです。


 私たち人間を含め、すべての動物は有機物が源になっています。その有機物は植物の光合成によって生成され、草食動物はその植物を食べます。草食動物は肉食動物に食べられ、その肉食動物が死んだあとその死体はバクテリアに分解されるのです。

 これらは三つに分けられます。有機物を光合成によって生成する植物などは生産者、私たちを含め多くの動物は消費者、バクテリアなどは分解者に分類されます。』


 「いいですか、ここテストに出しますからね」


 先生は黒板にピラミッドの絵と三つの単語を書いて、説明してくれる。


 生物は自分が生きていくために、体重のおよそ10倍の餌が必要だと言われているらしい。つまり、体重50kgの人が生きるためには500kgの食べ物が必要になるということだろうか。人間は雑食だから、様々なものを食べる。消費者だ。

 理想は食べられる物の数が食べる物の数より、10倍程多い状態らしいが生活している上でそんなことを考えたことは今までに一度も無い。理想形であると綺麗なピラミッドの形になるそうだ。何かが異常に増えたり減ったりすると、ピラミッドの形を保つことは出来ない。地球全体の生態系のバランスは崩れて行くそうだ。


 僕の好きなマグロも、食物連鎖の中で生きている。マグロは大型肉食魚だ。小ぶりなイワシやアジを食べる。その小魚は動物プランクトンを食べているし、動物プランクトンは植物プランクトンを餌としている。こうして成長したマグロを僕が食べているという訳だ。

 マグロは美味しい。そう言えば最近お寿司を食べていない。久しぶりに食べたいな。帰ったら母に頼んでみようか。


 そんなことを考えていると、突然教室が揺れた。揺れは大きかった。地震だろうか。震度はどのくらいで、震源地はどこか。


 「皆さん落ち着いて!机の下にもぐって下さい」


 先生の声が聞こえる。悲鳴と共に、一斉に僕らは机に逃げ込もうとした。だが、僕はバランスを崩して尻餅をついてしまう。

 周りの木々が倒れている。割れた窓ガラスからはそんな景色が見えた。


 ごおお。


 今にも校舎が崩壊しそうな音がして、僕は死を覚悟した。しかし、その音は明るさと共に静まる。次に目を開けた時、天井が綺麗に剥がされていた。


 「きゃああっ」


 女子生徒の悲鳴が聞こえる。僕は、そんな悲鳴など上げることが出来なかった。天井があった場所から見える空に、巨大な男がいる。その男と僕は目が合ってしまったのだ。巨人は僕を見てにやりと口角を上げると大きくて太い指を向けて来た。僕の制服はその男の人差し指と親指でつままれる。胸が圧迫されて苦しい。


 しかしその苦しさも、ほんの一瞬で。


 浮遊する体に、落ちているのだと認識する頃には僕の体は飲まれていた。



 「トムどこにいるの」

 「ここだよ、ママ」

 「何食べてたの」

 「ニンゲンのコドモだよ。小腹が空いちゃって」

 「あんまり食べ過ぎちゃだめよ。夕飯が食べられなくなってしまうわ」

 「わかったよう」




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