幸せの箸渡し


 「何がいいかな」


 インターネットの検索欄に女友達プレゼントと入力し、三十分。色々とページを巡ってみたけれど目ぼしいものが見つからない。ランキング形式で紹介するものがいくつかあったが、どれも同じような内容だった。


 「これは持ってるだろうし、口紅は前回あげちゃったしなあ」


 プレゼントを考えるのは好きだが、ある程度するとイライラしてくる。今回のように、あげたいものはあげ終えてしまった時は特に。


 「んんー……」


 消えてしまうような物がいいだろうか。消耗品なら、困ることはない。けれど消耗品などと言っても実用的なものしか浮かばない。いや、それをわざわざ誕生日に贈る人はいないか。それなら食べ物はどうだろう。お菓子の詰め合わせなら、甘くて幸せな気分になって、食べれば消える。とてもいい。


 「あ、駄目だ」


 彼女が卵アレルギーだったのを忘れていた。焼き菓子は卵が使われている。和菓子は日持ちがしにくいため、急かしてしまいそうだ。


 自分が貰って嬉しいものは何か。それで考えてみよう。


 食べ物系は抜かし、洋服やアクセサリー類はサイズや趣味が合わないときに処分に困るだろうと考えて却下。もちろん、商品券みたいなものは母の日じゃないんだから喜ばれないだろう。

 食事に行ってサプライズをしてもらうのでもいいけれど、やはり何か形に残る物もあった方がいい気がする。


 「ご飯食べちゃいなさい」

 「分かった」


 母親に促されて携帯を置く。それでも頭の中は何を贈ろうかでいっぱいだ。箸たてから箸を取る。先の方が剥がれ始めていて、そろそろ変え時のような気がしてくる。


 「箸……」


 いいのではないだろうか。箸。毎日使うもので、口に入るもの。私は安いものしか買ったことがないけれど、少しいいものを貰えたら私は嬉しい。

 だが、プレゼントには良いものなのか。


 よく、入院見舞いに鉢植えは駄目などという物がある。鉢植えは根付いているものであるため、入院が長引くことを連想させる。ネクタイにはあなたに首ったけという意味があると聞くし、知らずに贈ってしまえば誤解が生まれそうだ。

 このように、箸にも意味があるのではないだろうか。贈り物として適切であるのか。気になってしまえば調べる他ない。



 少し調べると、すぐに出てくる。インターネットが普及した現代はとても便利だ。箸にも意味があるようで、私はその記事を読んでいった。


『箸には、人と人とを結びつける「橋渡し」の意味があります。人間関係が良くなるという暗示が隠れているのです。また、お箸は二本で一組の物。どちらが欠けても使うことは出来ません。二本の箸が互いに寄り添う様から夫婦を連想し、「幸せへの橋渡し」という意味も隠れています。』



 「幸せの橋渡し……」


 素敵な響きだ。ただ、こうも続いている。


『ご年配に渡すのは、「三途の川への橋渡し」という事で嫌われる場合もあります。』


 ふむ、そんな風にも捉えられてしまうのか。難しいところではあるが、贈ろうとしている相手は私の同級生で二つ目の意味を心配する必要は無かった。



 調べていくと今まで知らなかったことが次々と出てくる。興味をそそられるものばかりで、つい、目の前にあるご飯を食べることを忘れてしまう。


 箸は二本で一組と言ったが、一本は「神様のもの」、もう片方は「人のもの」として神様と人とを結ぶ道具と考えられて来たそうだ。

 また、毎日使う箸には使う人の魂が宿るとも言われているらしい。食事には欠かせない。


 「これにしよう」


 ようやくプレゼントが決まり、ほっとして茶碗を持つ。冷たい。それもそのはずだ。家族は殆ど食べ終わっていて、よそわれて時間の経ってしまったご飯の上部分は水分が奪われてカピカピになっているように見えた。

 私はそのご飯を炊飯器に戻し、温かいものをよそい直す。


 喜んでくれたらいいな。そう思いながら食べる。口に運んだその箸の色は剥げていて、私のもそろそろ買い換えないといけないと思うのだった。


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