きょうはママのおやすみび。


 日曜日、幼稚園はお休み。ボクは朝ごはんの食器を洗っているママの、エプロンの後ろポケットに手を入れたり出したりして遊んでいた。


 「ねえママ。ママはいつおやすみ?」

 「うーん、ママは毎日お仕事かな」


 かちゃり、かちゃりと綺麗になったお皿が並べられていく。


 「おやすみないの?そんなのダメ!」


 ボクだって日曜日のおやすみがないと疲れちゃうもん。かけっこや泥遊びは大好きだけど、お家でパパやママと遊んだり、カーテンの裏にかくれてみたりする日がないと。こうして冷蔵庫のマグネットをお気に入り順に並べ替える時間も必要だしね。


 「パパ、ねえパパってば」


 リビングでテレビを見ていたパパの背中に飛び乗れば、話を聞いていたようで「じゃあ、今日はママに休んで貰おう。パパもお休みだしね」と言った。そうして今日はママのおやすみびになった。おやすみとは言ったものの、ママは少しの間ソファーで休んですぐに立ち上がった。何か思い出したのか、お風呂場へと向かう。


 「ママ、何するの?」

 「お洗濯よ。こんなにいい天気なんだもの」

 「ママ、これじゃおやすみじゃないよ!」


 ママはお家にいたら休めないみたい。これじゃ何も意味がないじゃないか。


 「いってらっしゃい」


 どこか出掛けておいでよというパパの提案で、家にはボクとパパの二人だけになった。


 「よし、お掃除するぞ」

 「うん!」


 帰ってきたママがお仕事をしないですむために、ボクとパパが協力してお家のいろいろなことを終わらせてしまおうということになった。


 「掃除機をかけて、ぞうきんがけだな。掃除機は重いからパパがやるよ。その間にバケツに水をくんでぞうきんを濡らしておいてくれるかい?」

 「わかった!」


 ボクは親指を立ててパパに見せる。パパはよし、とボクの頭を撫でてくれた。ボクが走ってバケツ探しに向かうと掃除機の音が聞こえてくる。


 「ないなあ、どこだろう」


 見つからない。


 「ねえママ、バケツどこにあるのー?」


 大きな声で言ってから、口を押える。あ、ママはおでかけ中だ。いつの間にか掃除機の音は消えていた。後ろを振り返るとパパが立っていた。どうやらさっきの言葉は聞かれてしまったようだ。


 「洗面台の下の扉、開けてごらん」


 言われた通り開けてみる。あ、あった!


 「しっかりとしぼったか?」

 「うん」

 「そしたらここから向こうの壁まで競争だ」

 「ボク負けない!」


 廊下のぞうきんがけはボクとパパのレースになった。しっかりと両手をぞうきんの上に置いてパパの掛け声を待つ。「よーい、どん!」レースは接戦だった。ボクもパパには負けたくなかったし、パパもボクには負けたくなかったみたい。勝負は引き分けだったけど、廊下はとても綺麗になった。



 「あー…つかれたぁ」


 家の大掃除が終わると、そろそろ洗濯物が乾きそうな時間。バケツを元の場所へと戻せば、靴を履いて庭に出た。洗濯物はよく乾いていた。昨日着ていたボクの幼稚園の制服も、パパのワイシャツも。ママのエプロンもあった。なんだか急に寂しくなって、エプロンを大切に大切に取り込むと、ぎゅっと抱きしめてからカゴの中へ入れた。洗濯物を全部取り込むとパパが次は草むしりだと言った。庭の花壇をボク、木の周りや車の近くをパパが担当した。最後にボクの分とパパの分をひとつにまとめて隅っこに置いた。ボクの方がほんの少し少なかったけど、花壇に生えているのが少なかっただけだとパパには言った。そのあとパパがコップに麦茶を入れてくれて、二人ともごくごくと飲み干した。


 気付くと夕日が沈んで辺りは真っ暗になっていた。どうやら疲れて寝ていたみたい。一日頑張ったボクとパパの洋服はたくさん汚れていて、帰ってきたママはそんなボクたちを見ると「お風呂入ってきちゃいなさい」って言った。ボクはパパと一緒にお風呂に入った。髪の毛も体も洗って、肩までお風呂に浸かって。ちゃんと百数えてから出た。もう、ボクたちのお腹はぺこぺこだった。何か忘れていると思ったら、お昼ご飯を食べていなかったのだ。あれ、なんだかいい匂い。ボクたちは急いでパジャマを着た。


 「今日は一日お疲れさま。これはママからのありがとうの気持ち」


 そう言って出て来たのはボクもパパも、そしてママも大好物のオムライス。黄色い卵の上にはケチャップでハートが描かれていた。一日頑張ったごほうびは、とってもとってもおいしかった。


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