カトウさんとムトウさん


 「カトウさんっていいいよな」


 二時間目と三時間目の間、五分休憩が始まってすぐの話だ。俺の席の後ろに座っている佐藤が話しかけてきた。次の授業で使うノートと教科書を鞄の中から出しながら抗議する。


 「は、何言ってんだよ。ムトウさんの方がいいに決まってんだろ」


 佐藤はむっとした表情で俺にプレゼンをして来た。俺も折れることなく言い返す。


 「いや、カトウさんの優しさは最高だ」

 「ムトウさんはクールビューティーって感じが良いんだよ」

 「僕はちょっとした優しさがないと駄目だな。ツンデレもツンがあるからデレが際立つ。そう思わない?」

 「それとこれとは別な気もするけど」

 「いや、同じだ」


 それなら一度味わってみればいい。そう佐藤に言われて俺はカトウさんを、佐藤はムトウさんを買うことにした。



 百円玉を入れて、ボタンを押す。がこんと音がして缶が出て来た。コーヒー加糖。佐藤も同じように百円入れて、隣のボタンを押す。無糖のブラックコーヒーが出て来た。

 プルトップを手前に引く。甘い。普段は好んで飲むことは無いがたまにはいいかもしれない。隣の佐藤を見ると俺と同じような顔をしていた。


 「なあ佐藤」

 「ん」

 「カトウさんも中々いいな」

 「ムトウさんの良さも分かったよ」


 ぐっと飲み干すとチャイムが鳴った。俺達は缶をごみ箱に捨てて教室へと戻る。


 「次の授業ってなんだっけ」

 「日本史」

 「あー、眠くなるやつだ」

 「大丈夫だろ。ムトウさん飲んだし」

 「確かに。今日は注意されずに済むかもしれない」

 「はは」

 「あ、でもウトウトしてたらペンでつついてくれよ」


 カフェインで眠気対策も十分なはず、だけど念には念をな。

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