しぶとい夏
ミンミンと蝉が鳴いている。麦わら帽子を被った子供たちが、ひょこりひょこりとムシ取り網を立てながら目の前を通りすぎていった。俺も数年前まではあんな感じだったのかと、炎天下の中を遠く見つめる。
ぐらり、地面が揺れた気がした。否、実際に揺れたのは自分の体で地面ではない。夏のうだるような暑さは意識を切りはなそうとしてくるのだ。
「ねえ、終わったの?」
「……まだ」
庭の草むしりを初めてかれこれ一時間。ようやく一角が綺麗になり始めたところだ。抜いた雑草は小さな山にしてある。ここまでやって来たことに一息。そして、残りを見て溜め息をついた。
「……だる」
前に草むしりをしたのはいつだったか。二週間経つか経たないか。そんなもんだろうと考えを巡らせる。どうしてこんなにも伸びるのが早いのか。いっそのこと生えてこなくてもいいくらいだと言うのに。
「まだ終わらないの」
「見りゃわかるじゃん」
そんなやり取りをしつつ、ひたすらに抜き続ける。爪の中に砂利が入ってくる。気分はいいものじゃない。けれどそんなことも気にせずに雑草を抜いて行った。
こんなに頑張っているんだ。これが終わったら、何かねだろうか。少しくらい罰は当たらないだろう。
「アイスでも買って貰おうかな」
何味にしよう。バニラが好きだけれど、この夏の熱さにはかき氷のようなさっぱりした物の方が良さそうだ。レモンのアイスにしよう。今日は土曜日だから、公園の横に移動販売の車が停まっているはずだ。アイス屋のお姉さん、可愛いんだよな。
お姉さんに会いたいから自分で買いに行きたいんだけど、母親が買い物に行くと言えばついでに買ってきて貰う方がいいだろう。この暑さの中、わざわざ自分で行くなんて言ったら怪しまれそうだし。
「あー終わった」
へたりと玄関に倒れ込めばカランと氷の音が耳に聞こえてきた。
「お疲れ様でした」
渡されたコップをぐっと上げて、一気に流し込む。
「………くはぁ」
冷たい麦茶は格別で、キンと頭が冷えた。今日は買い物行くのかな。行かないと言われたら、二百円貰って母の分も買って来ようか。ああ、お姉さんに会えたら疲れも吹っ飛ぶんだけど。
「どうしたのアンタ、じっと顔見つめて」
「いや、なんでもない」
目の前にあるのは何度見ても母の顔で、爽やかなレモンのアイスが食べたくなった。
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