8.囚われの究(1)

8  囚われの究



「あなたたちの目的は何?」


 キュウがいま対峙するのは、まさしく自身の誘拐を企てた黒幕。そして《死神》と呼ばれ恐れられる強大な闇の支配者。


「戦いや欲望が悲しみしか生まないことをあなただってわかっているんでしょ!」


敢然と立ち向かうキュウ。


 相対する漆黒の猫は、不気味な笑みを浮かべる。

その周りを取り囲むように数匹の黒猫が静かに佇んでいる。面識があるのは彼女をここに連れてきたディナスティアというあの子供猫のみ。紫ずきんの子供猫はにやにやと不敵な笑みを浮かべている。





 灰色の雲に乗せられ、その身の自由を奪われたままかなりの時間を空の上で過ごした。フジに連れて行かれているのに違いないと腹をくくっていた。これから自分の身にどんなことが起ころうとも屈してなるものか。連れ去られる間際の妹シュウの表情が頭から離れなかった。


 ディナスティアは途中、一度だけ地上に降りた。ノースアルプ以外の地理を完全に把握しているわけではなかったが、あれは空山の周辺に位置する“砂塵さじん鉱国こうこく“ダルドレイの辺りに違いない。上空から見えたのはマタタビスタとは比べ物にならないほどの巨大な都市。そして、砂、砂、砂。砂の中の都市。緑も水もある。近づいていくと、多くの猫たちが行き交う姿が見えた。


(この辺りは異形のものの侵攻を受けていないのだろうか?)


 ディナスティアは都市の中枢を舐めるように低空飛行して、鉱国の外れへと雲を飛ばした。

 ほどなくして着陸したのは果たして要塞のような建物の屋上だった。

 そこで子供猫は手負いの同僚シャドーを降ろした。その彼がどうなったのかはわからない。ディナスティアの指示で数匹の猫がシャドーをどこかへ運んでいった。

 その後、誘拐犯は驚くべきことに私に食事を与えようとした。そして「トイレに行くならここで」という気遣いを見せた。


 私は食事を拒んだ。敵の施しなど受けまいという気持ちで。しかし、あまりにもディナスティアがしつこく食事を強制するので仕方なくわずかに摂取した。

 彼らが私を殺そうとしているのではないことは直感的にわかってはいた。だからと言ってこのまま何事もなく無事にマタタビスタへ帰れるという保証はどこにもないのだが、差し当たっては健康体のまま利用したいという考えに違いないと思っていた。

 それにしても料理はおいしかった。バル・カンさんほどの腕ではないと頭の中で強く否定しようとしている自分がいたけれども。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る