4.出発の朝(1)
4 出発の朝(1)
「ったく、いつまで寝てんだよ!ヒトってのもよく寝るもんだな」
昨日の午後の様子とは打って変わって元気いっぱいのトワイライトに起こされて、異世界への迷いビト山吹光の二泊三日目の朝が始まった。
「う、うーん、トワイライト、ずいぶん早いね」
知らずのうちにかなり疲れていたようで、白猫の快活な大声というアラームが鳴るまで一度も目を覚ますことなく眠りの中にいた。
「ずいぶん早いねじゃねーよ、もう皆お待ちかねだってば」
「え、そ、そうなの」
寝ぼけまなこをこすりながら、ベッドから這い起きる。のどが渇いている。
「ほら、水だ。
トワイライトが差し出したのは陶器に入った一杯の水だった。
「あ、ありがとう」
何も考えずに飲み干す。適度に冷たく、喉ごしのやわらかな水は寝起きの体にしみわたり、ぼんやりとした思考も焦点が定まってくるような感覚だった。星流水ってことは星流湖の水なのか。
「どうだ、うまいだろ?微量のエーテルは体に良いってシェルのじっちゃんも言ってるし。ま、いいや、ほらコウ、さっさといこうぜ」
「う、うん」
トワイライトに急かされて立ち上がる。支度といってもすることはほとんど何もない。はじめから着たままのワイシャツにスラックスという学生服の姿のまま眠りについた。部屋の隅のほうに置いていたブレザーを羽織り、ベルトを締め、靴下を履くだけだ。シャワーぐらい浴びたいものだが、猫がシャワーなんて浴びるわけないよななどとぼんやり考えながらわずかな身支度をしていると白猫は、
「あ、そうだこれ」
といって小さなショルダーバッグの中から意外な物を取り出した。
「俺たちだって履くんだぜ、連日一緒じゃ気持ち悪いだろ?」
渡されたのは生成りの靴下だった。驚くコウ、
「え、あ、ありがとう」
「はは、こりゃびっくりって感じだな。コウが来るのに合わせて特注で用意しておいたんだ。まあシャツとかはないけど、今日が終われば元の世界にいっちまうんだし、そこまでは用意してなかった。ごめんな」
「いや、嬉しいよ。はは、やっぱり猫はきれい好きなんだね」
「へへ、あ、あとどうしても風呂に入りたいんだったらシェルのじっちゃんに言えば入れてもらえるぞ。さすがに俺たちはあんな地獄窯に進んで入ったりしないけど、ヒト文明愛好家のじっちゃんは自分で作った風呂に毎日入っているって言ってたし、まあセイメイ湖にダイビングした後にでもゆっくりしてけばいい。好きなんだろ、風呂?」
「え、あ、うん」
さらりと語るトワイライトの話も冷静に考えると不思議な内容で、つくづく自分が奇妙な世界にいるのだということを実感した。
渡された靴下を履いてみる。新品の肌触りは滑らかで心地よかった。
「お待たせ、さあ行こう」
「おっし、行くべし」
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