4.出発の朝(2)
トワイライトとともにらせん階段をぐるりぐるりと回るようにしてにゃんこセンター上部のセンター長、スピカ・ゼニス・ラマラウの部屋へ。
部屋の中には神妙な面持ちのセンター長とシェルストレーム博士、そして窓辺で遠くを見つめるシュウの姿があった。
「おはようございまーす!三年寝太郎さんも連れてきましたよ」
トワイライトの元気な声に反応して、物思いにふけっていた様子のシュウも歩み寄ってくる。にゃんこ先生とシェルストレーム博士は何をか話し込んでいた様子だったが、コウとトワイライトの姿を確認すると会話をやめた。
「おはようトワ、おはようございますコウ様。昨夜はよく眠れましたか?」
「うん、おはよう。寝れた寝れた、ぐっすりね。シュウは眠れたかな?大丈夫?」
「はい、ありがとうございます。今日は何卒よろしくお願いします」
眠れてなどいないだろう。疲労と
「コウ殿、今日はお頼み申します」
センター長はうやうやしく頭を下げると、コウの目を見つめた。深遠で荘厳、奥深い雰囲気は出会いの瞬間と変わってはいないが、その小さく光る
「あ、はい。頑張ってみます。できる限り、精一杯」
「うむ、恩に着ます。丸腰ではフジには臨めぬ
「フジ?ですか?」
「いや、失礼。昨日の会議では詳細までは出なかったがの。フジというのはここからはるか南方にある《死神》の拠点と言われておる島のことですじゃ。昨日のディナスティア及びシャドーはキュウを誘拐し、フジへと向かっておるであろうとマルキーニャスも推測しておる」
「そう、なんですね」
フジとは富士のことだろうか。いや島というからには違うだろう。何でも自分の世界と結びつけて考えるのはやめよう。ここは異世界なんだ。
「シェルストレーム、そちらを」
「はい」
センター長に促され、学者猫は円卓に置いてあった円筒状の物体をコウに差し出した。
「コウ殿、こちらをお持ちください。本日は何卒よろしくお願い申し上げます。キュウを何卒、キュウを何卒」
昨日の会議では気が付かなかったが、このシェルストレームという学者猫は近くで見るとかなりひょうきんな風貌をしている。大きくて丸いレンズの眼鏡は黄色いフレームで、ちゃんと度が入っているのだろうか、レンズの厚さのためかずいぶんと両目が小さく見える。いかにも学者然とした帽子をかぶり、白衣をまとう個性的な猫は、トワイライトによればヒト文明愛好家で、風呂にも入るというのだから彼の存在自体に好奇心を刺激される部分が多分にあるのだが、そんな博士の見た目のひょうきんさとは裏腹にトーンはシリアスな様相を帯びている。
「こちらにはコウ殿のために開発・作成されたウエットスーツが入っております」
手渡された円筒状の物体は、はんごうのような形をした樹脂製のリュックサックだった。高さは五、六十センチといったところだろうか。見た目の雰囲気とは逆にずいぶんと軽い。
「ウエットスーツ?」
「はい、中にウエットスーツ、ゴーグル、そしてバタ足などが入っております。セイメイ湖の水は冷たいかもしれませんが、これを着ることでほとんど感じることはないでしょう、そうそうタオルも入れておりますのでな。上がりましたらこちらでどうぞ拭いてくださりますように」
コウはリュックの中をのぞいてみる。昨日素潜りと聞いてから、裸で潜るシーンを想像していたのでこの展開には驚いた。猫の世界でウエットスーツが出てくるなんて誰も思わないに違いない。
「ありがとうございます。まさかこんな物があるなんて」
用意されていた思わぬ装備に少しだけ勇気が湧いてくる。それと同時に緊張が高まるのも感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます