第2章 シリウス 1.にゃんこ会議(1)
1 にゃんこ会議
「猫に戻った
数十匹の猫が一堂に会し
初めてにゃんこ先生とトワイライトに会った部屋の一段下の階には会議室があり、いまマタタビスタ内の様々なセンターのリーダー達がここに集結している。
「うむ、ご苦労であったドクター・ピサ」
医者猫ドクター・ピサの報告を受けて低い声で応答したのはやや疲労の色が見えるセンター長、スピカ・ゼニス・ラマラウだった。
センター長をはじめ、トワイライト、シュウ、マルキーニャス、シェルストレーム、ピッチといった面々も集まっている。一様に神妙な面持ちだが、特にもシュウの沈痛な表情は部外者のコウにとっても気の毒で胸がきしむような哀れみを感じた。
「この度、既にお聞き及びかとは思うがシュウの姉キュウが侵略者に誘拐されてしまった。奴らの真の目的はわからぬが、可能性としては予見できたシナリオであったにもかかわらず、
にゃんこ先生の言葉も耳には届いていないであろう。うつむき、魂が抜け落ちてしまったように虚ろな表情を浮かべているシュウ。
「兼ねてより、噂のあった《死神》であるが、今回の事件で確認できたのは侵入者は《死神》の手下であるシャドー、そしてディナスティアという二匹の黒猫が今回の我が国への侵略の指導者であったということだ。最も企てそのものは《死神》クロの首謀するところである。強大な力を持つシャドーであったが、いまドクター・ピサの話にもあったバル・カンの活躍によって退けることができた。しかし、その後唐突に現れ、稲妻のような所業でキュウを連れ去った者がディナスティアであった」
バル・カンが仕込んでくれていた小籠包が猫たちの前の低いテーブルに並んでいるのだが、手をつけられないそれは、もう当に冷めてしまっているに違いない。コウも食欲はわかない。食堂で朝食を食べてから時間にして五・六時間は経っているだろうか、昼時を過ぎ空腹を感じてもおかしくない頃合いだったがいまはそのような気分ではなかった。
ピッチ、ブエナの二匹と地上に出て目にした光景は、昨夜から想像を絶する場面に出くわしてきたコウにとっても度肝を抜かれるような景色に違いなかった。
モニター越しに見ていた猫の街並みをじかに見ることによって改めて驚いたのも事実だが、それよりもそういった建物の付近や、遠目に見える橋のあたりまで横倒れになっている数百匹はいるであろう猫の姿に愕然とした。
「死んでしまったわけではありません」というピッチの言葉には安心したのだが、そこに広がるのは戦の跡の光景であって、心の芯が冷えるような恐ろしい景色だった。
にゃんこセンターの正門を出て真っ直ぐの方向にモニター越しに見ていた大通りがあり、両側には住居なのか、それとも他の何かの施設なのかはわからないが様々な建物が並んでいた。やはり「建物」といってもコウの感覚からすると全体的に小さいような気がした。
猫規格の街並みに横倒れになっている数百匹の猫を兵隊猫達がタンカーに乗せて運んでいた。
「こんなに一気にじゃ病院も大変よねー」
とブエナ、どうやらマタタビスタ共和国には病院もあるらしい。
トワイライトにはセンターを出ていくばくもなくして再会した。
「コウ!ピッチ!ブエナ!」
必死の形相で駆けてきた白猫剣士からは最初に出会ったときの快活な雰囲気は消えていて、潤んだ目でぶるぶると震えながら、
「シャドーは?黒猫は見なかったか!」
と叫んだ。自身の内側から起こる恐怖を打ち消すかのような様相だった。
「ちくしょー!何が狙いなんだ!」
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