1.にゃんこ会議(2)

「落ち着いてトワイライト君、映像で見ていたけど黒猫だって魔弾砲まだんほうに飲み込まれたんじゃない?」


「いや、そんなヘマをやらかすような奴じゃないはずだ。すぐに追いかけたけど途中で姿を見失った。奴はいったいどこに?」


とそこへものすごいスピードでこちらへと駆けてくる一匹の猫。銀猫の韋駄天いだてんがぐんぐんとこちらへ迫ってくる。


「マルキーニャス様!」


とブエナは歓喜に小躍りし、トワイライトは、

「師匠!」と叫んだ。


 三匹と一人の姿を確認するや否や、師匠と呼ばれた銀猫は、


「エーテルです!奴らの狙いは。キュウやシェルストレーム様が危ない!」


「ちっきしょー!」


 トワイライトは即座に駆けだした。

 ピッチ、ブエナと目を合わせるコウ。


「行きましょうコウ様」というブエナの言葉にうなづき、すぐさま白猫の後を追いかけるような恰好になった。一番あとからやってきたマルキーニャスだったが、コウ達が駆けだした二、三拍の間に風のように抜き去っていった。


「早いっ!」


驚異的な速度だ。驀進ばくしんするマルキーニャスの後姿はあれよあれよとトワイライトも抜き去ってぐんぐんと離れていく。


「さっすがマルキーニャス様ね、何とか間に合って」


とつぶやくブエナに心の中で同調した。優し気な表情で自分を見つめていたシュウを思い浮かべる。(シュウの身に何事もなければいいんだけど)


 コウと二匹もにゃんこセンターの建物の右側を通って研究施設が集まっているという区域を目指した。そして、彼らにも遠めにその一帯が視界に入ったそのときだった。

 前をゆくマルキーニャスの姿が止まった。トワイライトは奇声を発しながら駆けている。マルキーニャスはどうしたのだろう、建物の入口の前で身構えている。何かの気配を察したのか。違和感を覚えながらも必死でピッチとブエナの後を追いかける。さすがに猫、早い。二足なのにもかかわらず。

 トワイライトが銀髪の師匠に追いついた。その刹那、突如として現れた飛行体。

 灰色の雲、その上に立つのは、


「キュウ姉!」


トワイライトの叫ぶ声が聞こえた。


「トワイライト君!」


 光の帯でとらわれたまま、シュウに似た猫がそれに応えている。

 そして、その隣で不敵な笑みを浮かべる紫ずきんの黒猫がディナスティアというくだんの子供猫だった。


「キュウをどうするつもりなのです。離しなさい!」

とマルキーニャス。


「はは、見りゃわかんじゃん。誘拐ですよマルキーニャスさん」


「どうして私の名を知っているのです?あなたは何者なのです」


 ブエナ、ピッチも駆け付けた。


「知っているも何も全部見てたし、ここでのびてるシャドーちゃんがやらかしそうな気がしてたからねー。っていうかマルキーニャスさんは有名だし!サウスアルプでも無駄にひと暴れもふた暴れもしてくれてたみたいですもんねー。お初にお目にかかれて光栄ニャス。あ、そうそう僕ちんの名前はディナスティア。まあそう会うこともないか。っていうかごめんにゃさいね、おしゃべりしている暇はないのよ」


 ここでコウもようやく追いついた。ディナスティアが一瞬驚きの表情を見せた。


「えっ?ヒト?こっちにもいんの?まっいいや僕ちんには関係ないし、じゃあねー」


ディナスティアはにわかに飛び去ろうとする。


「あ、待て!」


追いかけるトワイライト。

 マルキーニャスもすぐさま強く地面を蹴り空中に高く飛び上がった。


「待ちなさい!」


 灰色の雲の上に乗ろうとする銀猫。飛び上がりながら紫紺しこんのずきんをめがけてかかと落としをあびせる。ディナスティアは「ニャッ」と言うとマントの中から右手を出し、三匹が乗る雲の周りに光の膜を作った。マルキーニャスは黄金色こがねいろに輝くそれにはじかれ地上へと落下する。


「待ちなさい!」


 造作もなく防がれた一撃もよそに、マルキーニャスは再び駆ける。そしてタンと地面を蹴り上げる。浮かび上がり拳を叩きつける。しかし、光の膜は破れない。


「ごめんにゃさいね、ニャハハハハ」


「キュウ姉!」


「トワイライト君!みんな!」


 叫び声も空しく、ディナスティアはぐんぐんとスピードを上げてあっという間に飛び去っていってしまった。

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