3.湖底下の地底湖の湖底(1)

3  湖底下の地底湖の湖底



 眠りはなかなか訪れてくれなかった。目まぐるしく様々なことが起きた一日がとこについたコウの頭の中でフラッシュバックする。シュウとトワイライト、二匹の白猫に導かれ辿り着いた猫の世界。夢ではないリアルな異世界で出会った様々な猫たち。おいしい料理を作り、本を読み、話し、人間のように歩き、異様なほどに強い猫もいて、邪悪なる存在と立ち向かって・・・。

 得体の知れないエネルギーの開発が進んでいて・・・。



 シェルストレームが語った内容は想像を絶するものだった。星流湖せいりゅうこという湖の湖底には、星くず族という種族が住む地下世界が広がっており、その湖底下の集落の中心部にはさらにもう一つ湖があるというのだ。学者猫の説明で完全に理解したわけではないが、湖底下の星くず族の民の地下集落はもともと二層構造になっていて、くだんのシリウスという隕石の落下によって上層部は直撃を受け、そのとき上層部にいた者はほとんど亡くなってしまった、というのが星くず族が魔岩シリウスを憎んでいるという話の要因となる。

 下層部からは天井に突き刺さったかのようにシリウスの半球を仰ぎ見ることができるということだが、衝突の際にその一部は下層部にも落ちた。そして、それは湖底下のもう一つの湖、つまり下層部にある湖の中に落ちていってしまったらしい。上層部分は今ではもうほとんど水没してしまったという話だった。隕石が直撃したとき、水流から逃げ遅れた者も無念の死を余儀なくされたということだった。


 しかしながら、結局は大きな隕石を撤去することは実現していないらしい。天井が抜ければもともと下層部だった部分にも湖の水が流れ水没してしまうということもあるし、例えば星くず族に大掛かりな引っ越しをさせてまで、あるいはシリウスの撤去のために頭数と時間を割いてまで湖底調査をするほど、エーテルの有用性が証明されていなかったという経緯もあるということだった。

 いま現在は隕石シリウスを丸ごと引き上げたいマタタビスタ共和国の意向で星くず族との話し合いがなされてはいるようだが、自分たちの生きる環境が変わることを嫌がる者も一族の中には多く、中々首を縦には降らないらしい。




 そして、自分が呼ばれた理由というのが、湖底下の湖に沈んでいるシリウスの原石を素潜りで引き上げてほしいという驚愕の依頼によるものだった。そもそもシリウスの小さな小さな欠片を拾い集めてはシェルストレーム一匹でひっそりと研究を進めてきたエーテル研究だったが、異形いぎょうのものの浄化への効力を証明し、小さな欠片を集めてエーテル化(シリウスの欠片からエネルギーの結晶を抽出することをこう呼ぶらしい)だけではなく、より大きな原石を得て、それをもとに魔断の武器を作りたいという計画だったようだ。



 結果的には、キュウの誘拐という災難はもう起きてしまったのだが、もとよりその退魔の武器とともに、異形のものの浄化の旅、そして《死神》と呼ばれる黒幕の討伐を目的とする旅に出るのがマタタビスタの国家としての計略だったようだ。

 湖底の下の湖を、星くず族は“セイメイ湖”と呼ぶようだが、驚くほど深いというわけではなく、いわゆる深く潜ったことによって生じる身体への危険については心配がないとシェルストレームは説明した。元の世界同様、水が苦手だという猫的特徴は変わらないらしく、彼らには潜ることができない。しかし、こんなに文明が発達しているならセイメイ湖から石をすくい上げる機械ぐらい作れそうなものと思ったが、それには様々な課題があり進んでいないらしい。エーテル研究が日の目を見るようになってからの年月の浅さも無関係ではないようだが、深く深く潜っていく地下世界の入り組んだ暗闇トンネルを機械を持って下降していくことの物理的な課題が第一に立ちはだかっているということ。

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