4.異変

 4.異変



「一体どうなってるんですか⁉何が起きているんですか⁉」


コウはたまらず叫んだ。異常な事態に巻き込まれてしまった。得体のしれない世界で。全く自分の意思に反して、お力添えが必要だとかなんとか、関係ないのに、関係ないのに、困るよ。怖いよ。


 にゃんこ先生は、沈思黙考ちんしもっこうの様相。


「うむ、この閃光、この強大な力。よもや・・・」


と言ったまま口を紡いで何をか考えている様子。


 バタンと後方から音がして、部屋の扉が開いた。現れたのは一匹の兵士の恰好をした猫だった。


「センター長!」


 入るなり、必死の形相で何をか訴えようとしているが、長い距離を駆けてきたのか肩で息をしている。

 シュウとトワイライトが駆け寄る。センター長も杖を片手に歩み寄っていったので、コウも慌てて後についていった。


「ピッチ!何があった?何が起こっているんだ?」


と言ったのはトワイライトだった。


 ピッチと呼ばれた兵隊猫は、食堂でブエナがかぶっていた帽子のように耳の部分だけ出る形のヘルメットのようなものをかぶっていた。背には剣を担いでいる。雨で濡れたのだろうか、全身が濡れていた。息も切れ切れに、


「はぁ、はぁ、ご報告いたします。マタタビスタ内に異形いぎょうのものが侵入しました。その数、恐らく三百体以上。はぁ、はぁ・・・、そしてそれを率いているのはもしかすると、もしかすると・・・」


「うむ、《死神》かもしれん。だとすれば困った事態になってしまった。シリウスも出来ておらぬし、こんなときにマルキーニャスも帰ってきておらぬ」


 非常事態であることに疑いはなく、それが彼らの想定を超えているであろうという様子がさらにコウを不安にさせた。異形いぎょうのもの、死神、シリウス、耳慣れない言葉が飛び交う。


「まぁ、当然異形いぎょうのものだけじゃないよな、このパワーは、センター長、俺行きますよ!」


 トワイライトが言った。


「うむ、先ほどからそれを考えておった。そなたは急ぎ敵将の元へ向かってほしい。そして足止めをするのじゃ。異形のものだけなら他の兵士でもなんとかやり合えるかもしれぬが、いま強大な相手と戦える者はそなたしかおらぬ」


「合点、承知の助!はは、任せちゃってくださいよ!」


「くれぐれも気を付けるのじゃぞ、正体はまだわからぬが、《死神》である可能性もある。だとすればまともにやり合うこともままならぬかもしれぬ。すまぬが、とにかく時間を稼いでくれ」


 ピッチの背中をさすっていたシュウも心配そうにトワイライトを見つめる。


「トワ、無理しないでね」


「はは、わかってますって、ちょちょいのちょいとやっつけちゃったらすみませんね」


と軽快に言い放つトワイライトの表情にもわずかに強張りが見える。どうやら自分をこちらの世界に誘導した白猫は、勇猛で腕の立つ戦士であるらしいことがわかった。戦士の目になった彼は、


「ほんじゃコウ、また後でな!」とにっかりと微笑んでみせると、一目散に部屋を飛び出し、階段を駆け下りていった。


 にゃんこ先生は続けて残る二匹へも指示を出した。


「シュウ、そなたはエーテル研究室へ。キュウに魔弾のエーテルの発動を急ぎ依頼してほしい。といってもそなたの姉のことじゃ、既に動いているとは思うが・・・」


「はい、わかりました、いずれにしてもサポートに向かいます!」


「ピッチ、そなたはコウ殿を地下シェルターへお連れするのじゃ」


「は!かしこまりました」


「わしは放送室へ参る」


シュウは何か言いたげにこちらを見たが、気遣わし気な表情で軽く会釈をすると、


「ピッチ、コウ様をお守りして」


というと駆けだしていった。

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