6.暗闇トンネル(2)
三匹のやりとりを聞きながら、トワイライト、シュウについで一番後ろを歩くコウだったが、どうにも暗い。入り口からほどなく進んだところでわずかに差し込んでいた光ももう届かなくなった。暗闇トンネルは足元も滑り想像以上に歩きづらい。
「シュウ、ごめん。もうちょっとゆっくり進めないかな?目が慣れなくて」
「あ、申し訳ございませんコウ様」
振り返るシュウ、すぐに問題を察しウオッチを呼び止める。
「ウオッチ君、ちょっと。コウ様は私たちのようには夜目が効かないのです」
「あー、そうだった。忘れてた。いつもあんまり使わないからさー、ちょっと待ってね」
と言ってウオッチはガサゴソとリュックの中から何をか取り出す。
「はい、これよかったら使ってちょ」
と渡されたのは懐中電灯だった。
「星くずちゃんたちのところにいけば、わりかし明るいんだけどさ、道中はまあまあ暗いからねー。ごめんね、コウちゃん気が利かなくて」
「いやいや、助かった。ありがとう」
渡された懐中電灯を灯しながら答える。
光を周囲に向けてみる。狭い通路が前方には何本かあるようだ。正しい道を選ばなければセイメイ湖にはたどりつけないのだろうか、壁面の岩肌は荒く、いびつな凹凸をさらしている。少し濡れている。上部を照らす、コウはその瞬間はっとした。無数の鋭利なつららのような突起が垂れ下がる天井には鳥のような生物がたくさんつり下がっていたからだ。
「う、うわっ!」
思わず悲鳴を上げる、よろめき後ずさりする。
「どうしたんですか?」
シュウがすかさず応じる。
「あれは?」と天井を指差すと、ウオッチが
「ハハハハハ」
と大きな声で笑った。
(お行儀よくねーって言ってなかった?)
一瞬そう思ったが、すかさずトワイライトがウオッチに同調して、
「なんだコウ、コウモリが怖いのか?ハハハハハ」
とこちらも大きな声で笑うので、
「コ、コウモリ?怖くなんかないよ!僕はてっきり
と強がったが、
「うふふふふ」
とシュウも楽しそうに笑うので、心外だと思いつつも少し嬉しくなった。
「異形のものはさすがにこの中には入ってこれないさコウちゃん、だってエーテルに弱いんだろ、飛んで火にいる夏の虫よー」
とウオッチが言えば、トワイライトはまたふざけて、
「コウはびびり虫だけどな」
と馬鹿にするので、
「こいつー、トワイライト、このー!」
と言ってふさふさな白猫を後ろから抱き込み、羽交い絞めにして、わきの下や耳の後ろをくすぐる。トワイライトは嬉しそうに「イヒヒヒヒ」とか「オホホホホ」と言いながら、ゴロゴロとのどを鳴らした。
「気持ちいいツボ知ってんね、コウ」
とかえって調子に乗らせてしまった様子なので、
「まったくもう、帰る!」
とわざと言うと、
「おーとととと、ごめんなさい!ごめんなさいコウ様、神様、救世主様!」
と慌てて平謝りするトワイライト、コウはクスリと笑うと、
「冗談だーい、まったくいい性格してるよなトワイライトは」と応じると、シュウも「ほんとほんと」と調子を合わせるので一同で笑った。
暗闇トンネルをずいぶんとにぎやかに明るいムードで下降していく一行だったが、静かに音もなく背後からその様子をのぞき見ている者がいることには誰も気づいていなかった―。
ウオッチは歩き慣れた道という感じで、迷うこともなく分かれ道も選択し、ぐんんぐんと進んでいく。ぬめる足元に最初のうちは苦戦していたコウも、徐々に慣れて前をゆく三匹に懸命についていく。暗闇にも慣れ、コウモリや、地面を這う様々な生き物にもいちいち驚いたりしなくなっていた。
(だいぶ歩いたよな。)
時間的感覚は、まったくの感覚でしかないが、ぬめる下りのゆるやかな道を何度も分かれ道を選びながら、三十分以上は歩いている気がする。
何度目かの分かれ道を通り抜けて、少しだけ開けた踊り場のような場所に出た。
「休憩しようかー?」
と振り返り様にウオッチ。
「そうね、少し休みましょう」とシュウ、トワイライトは「おーし、おっにぎり、おっにぎり」と陽気に歌っている。
「おにぎりにはちょっと早いかもねー、まあでも一個ぐらいだったらいいんじゃないの。また後でお腹空いちゃってもセイメイ湖の魚を釣ってあげるよ」
ウオッチの言葉に、トワイライトの機嫌はさらに良くなってしまったようで、
「うほー、マジっすか?マジっすか?ウオッチ先輩、本気と書いてマジっすか?」
と今にも小躍りしそうな雰囲気だ。
三匹と一人は、岩場に腰かけてしばしの間休むことにした。疲れたと感じるほどではなかったが、マタタビスタを出てから、おそらく一時間以上はゆうに歩きどおしであったため、腰を落ち着けたときには、やけに足が楽になったのを感じて意外と消耗しているのだなとコウは思った。
トワイライトは嬉しそうにショルダーバッグの中からブエナが持たせてくれた弁当箱を取り出すと、おにぎりにかぶりつき、
「うひょーこんぶだ、うめー」
とご満悦の様子、他の二匹と一人は水筒を取り出し水分補給をするにとどめた。
「そういえばさ、本気と書いてマジっすか?とか言ってたけどさ」
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