6.暗闇トンネル(1)
6. 暗闇トンネル
「いやー、牡蠣旨かったなー」
「だろー、栄養もたっぷり、ぷりぷりよー」
「ぷりぷりよー、ぷりぷりよー、ぷりぷりぷりぷりぷりっぷりっ」
緊張感があるのかないのかわからないトワイライト、歌いながらウオッチとともに前を行く。
シュウは、
「ウオルビーさんによろしく言っておいてね」
と大柄な猫に声をかける。
「お土産持って帰ろうぜ、なんかあんだろ、星流湖まんじゅうとか」
トワイライトが口をはさむ。
「ははは、そんなのないよー。何もいらないよー。ああ見えてトワっちとか、シュウのこと心配してたからね、無事に帰ってくるのが一番のお土産だよ。まあ俺がいれば大丈夫だけどさー」
ウオルビーさんというのはウオッチの父親で、
「せがれがお世話になります」
とコウは丁寧に挨拶をされた。渋いという形容詞がぴたりとくるようなダンディーな漁師猫だった。
二匹と一人は「朝めしに」とお魚センターで働く猫たちのために焼いている牡蠣を提供してもらった。
牡蠣が大好物なコウは、予期せぬ、嬉しい朝食に興奮し、
「大量にあるから、遠慮せずどんどん召し上がってください」
とベテラン漁師猫に促され、焼き牡蠣にどこかで聞いたビノベッツ産というレモンを絞り、しょう油を少したらして二、三十個は食べた。
トワイライトやシュウは、いわゆる猫舌という言葉が似つかわしくない様子で旨そうにウオルビーさんの牡蠣を食していたが、それでもせいぜい3つか4つで満足といった風で、コウの食べる量には驚いている様子だった。
「しっかし、コウの食いっぷりには驚いたよな、ヒトってのもわからねえもんだよな。確かに俺らよりは体もちいとばかし大きいけどよ、あんなに牡蠣を食うなんてな」
「ごめん、やっぱり食べ過ぎだったかな?牡蠣がすごく好きなんだ」
トワイライトの言葉に悪意はないだろうとは思ったが、ウオッチが仕事を切り上げて現れるまで夢中になって食べてしまったことを少し恥じていた。
「いんだよ、いんだよコウちゃん。親父も喜んでたよ。救世主様に牡蠣を食わして精力つけさせるなんてさ、後で絶対自慢のネタになるしさ」
ウオッチはにんまりとほほ笑むと、「まっコウちゃんすっごく牡蠣好きみたいだからさ。またお魚センターに寄っていくといいよ」とつないだ。
「ありがとうウオッチ君」
最初からちゃん付けで呼ばれることに少し驚きはしたが、おっとりとした癒しの雰囲気を持つウオッチは親しみやすく感じていた。のんびりとした雰囲気とは裏腹に、不思議な頼もしさを感じるのは他の猫たちに比べてだいぶ大柄だからかもしれないが、道すがら聞いた話ではお魚センターで父ウオルビーを手伝いながら、国家のために星流湖探索班に参加し、若くして班長となり活動をしているということだった。貴重な働き手であるウオッチを「修行のため」と国家に差し出すような形で申し出たのがウオルビーで、息子の成長を願いスピカ・ゼニス・ラマラウとシェルストレームを中心とする一大事業への協力が始まったらしい。
「親父が星流湖の魚に興味があったってのもあると思うけどねー」
ウオッチとの自己紹介を交えた話を聞きながらマタタビスタから歩いてきたが、星流湖はそれほど遠くはなく、
「これが星流湖よー」
とウオッチが言うまでマタタビスタを出てからコウの感覚では十分から二十分ほど歩いた場所にそれはあった。
「これが星流湖?」
想像していたよりも遥かに小さいとコウは思った。湖と言われれば確かに湖だが、勝手に巨大なものを想像していたせいもあり、せいぜい野球場が二、三個分くらいかなと思われる大きさにイメージとのずれを感じた。シリウスという隕石が落下したという湖面は、静かにたゆたうように凪いでいて、太陽光を反射して美しく煌めいていた。コウたちが立つその場所からも湖の全貌がわかる。向こう岸が見える。一見、何の変哲もない穏やかなただの小さな湖の円周にはまだらに木々が立ち並ぶ。水は美しく澄んでいる。雲と空を映すどこまでも青い水面を白鳥や鴨が泳いでいる。よく見ると魚の群れの姿も見られる。
「洞窟の入り口はもうちょい先だけどね」
というウオッチについてまた少し歩く。
湖の周りを半時計周りに数百メートルほど歩いたところにそれはあった。来たことがある者でなければ見落としてしまうのではないかと思われる目立たない穴。木々と草花が光を遮るようにその周りを覆っていて、まるで禁忌のエリアであるかのように、外界とのつながりを拒むかのように星くずの民の集落への入り口がひっそりと開いていた。
「ここよー、さあいくよー、足元滑るから気を付けてね」
ウオッチを先頭に真っ暗な洞窟内へと踏み入っていく。
「ひやっほーい。こういうのこういうの、冒険って感じ?待ってました!」
トワイライトは騒いでいる。
「静かにしなさいよトワ」
あきれたようにシュウ。
「いいじゃん、いいじゃんシュウ」
「トワっちー、初めてだし、こういうの好きそうだからテンション上がるのはわかるけど、あんまりはしゃぎすぎはだめよー、ってのも星くず族は警戒心が強いからさ」
何度も訪れたことがあるシリウス採掘班の班長にたしなめられて、さすがにトワイライトも素直に応じた。
「へへ、ごめんごめん星くずさんのテリトリーだもんな。静かにしないとな」
「そうそう、彼ら俺っちには慣れてるけどさー、トワっちもシュウもコウちゃんも初見じゃん?コウちゃんのことは前から話してはあるけど、いずれにしても最初はお行儀よくねー、しとかないとねー。博士のメンツもあるから」
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