第34話「事の成り行き」

 Side 木里 翔太郎


 レッドスターの三人が絡んで来たので手早く片付け、凶器を没収して和泉 ツカサ先生の家に辿り着いた。


 家の中には意外な人物がいた――金髪で大柄の、日本人離れした体格の男。

 赤い帽子に赤いジャケット。赤い星のバッジ。Gパン。

 今でも有名な某格ゲーキャラみたいな出で立ちだ。


 そして鑑 ほのかがいたのだ。

 何故か彼女は怯えきった表情をしていた。

 ファミレスでのやり取りが嘘のようだ。


「赤城 セイト――」


 俺はその名を呟いた。

 リュージから教えて貰ったレッドスターのボスの名前だ。

 

「へえ・・・・・・俺の名前はご存じって事か」


「まあな・・・・・・俺も和泉 ツカサ先生の用があるんでな。正直言うと今回の一件、静観するつもりだったんだけど、そこにいる作家さんのせいでそうも行かなくなったんでな・・・・・・」


「へえ・・・・・・」


 そう言って赤城 セイトは目をほのかに向ける。


「どう言う理由だ?」


「他所様の家の玄関前で立ち話するのもなんだ――警察呼ばれる前に場所を変えようぜ」


「そうだな」


 そう言ってチラッと赤城は後ろに目をやる。

 リビングへと続く廊下には和泉先生の親族達がいた。

 皆怯えきっていて事の成り行きを見守っている。

 何時警察にタレ込むか分からない状況だ。


「だが今日は失礼させて貰うぜ。大方家の前で伸びてる子分どもの片付けもあるんでな」


 セイトはそう言い残して鑑 ほのかと共に立ち去った。

 

「まるで借りてきた猫のようだったわね」


 手毬はそう毒づく。

 彼女の言う通り、鑑 ほのかはそんな感じだった。


「あの様子だと鑑の奴、実は場当たり的に行動しているんじゃないだろうな?」


「そうね」


 鑑 ほのかは最初、計算尽くで色々と行動しているようにも見えたが実は場当たり的に行動しているのでは無いかと言う仮設が浮上してきた。

 そして帳尻を合わせられる行動力がある故に今回の騒動が発生した――この仮説が本当ならば、ある意味計算尽くで行動するよりも始末が悪い。

 下手に放置すると大惨事がより悪化する。


(ともかく・・・・・・和泉 ツカサ先生に会いに行くか――)


 そう言って挨拶をして階段を上がる。


☆ 

 

「もうなんなんだよ!? あの女が盗作してから災難ばっかだ!! 一体全体何が起きてるんだよ!?」

 

 メガネを掛けた一見普通の少年、和泉 ツカサ先生は疲れ切っていた。

 ある程度事情を話すとそう本音をぶちまけた。


「相当疲れてたみたいね」

  

 手毬でさえ同情の目線を送っていた。


「――悪い、少し楽になった。暫く俺学校休むよ・・・・・・筆も休める・・・・・・とてもじゃないがラノベ書く気分じゃない」


「ああ・・・・・・」 

 

 これは仕方ないことだ。

 普通の人間がエグイ不良漫画の世界に放り込まれたようなもんだ。

 実際経験してみればこうなるのが普通だろう。


「で? 和泉さん? 心の傷を抉るようで悪いが色々と教えて貰えないか?」


「いいよ。色々ぶちまけたい気分だし。それにしても鑑の奴、懲りずにゴーストライダー探してやがったのか・・・・・・まさかあそこまで性悪女だったなんて。知ってれば関わらなかったよ」


「だろうな・・・・・・」


 普通の人間なんだな~と何処か感心しながらも愚痴を聞く。

 手毬も口を挟まない限り同情してるんだろう。


「鑑とは中学同じで同級生で――まあクラスカーストのトップを走ってたよ。それにとてもよくモテて学校のアイドルだ。だから男がよく付きまとっていたのはよく覚えている。赤城 セイトの姿はその頃からあったよ――」


「赤城も同じ中学なのか?」


 俺は疑問を口にした。


「ああ、目立つ容姿だからよく覚えている。その頃から有名な不良だけど幸い学校の行事どころか授業にすら全く出なかったのが不幸中の幸いかな。正直関わりがあるとは思ってなかったよ」


 と、一般人の視点から語られていた。


「で・・・・・・鑑は、どうやって原稿を入手したの? やっぱり色仕掛けかしら?」


 手毬が本題に切り込む。

 見るからに和泉先生は嫌そうな顔をしていた。あまり触れられたくないのだろう。気持ちはとても分かるがそうして貰わないと話は進まないのだ。

 事が終わったら詫びで何かプレゼントしようと思った。


「そうだね。手毬さんの言う通り、そんな感じだ――女に騙される男ってこんな感じなんだな。とてもそうには見えなかったし」


「まあ、普通の男があの容姿で迫られたら騙されるのも無理ないわよね。あのビッチ容姿だけはいいし」

 

 手毬の言う通り、鑑 ほのかは容姿だけはいい。

 だから、どうして鑑の奴が原稿を手に入れたのかと言う詳細な経緯は聞かずにしておいた。

 あまり心の傷を抉るような真似はしたくない。


「んでまあ今の事件に繋がるワケだ。タイトルは変えてるけど、盗作だって一目見れば分かったよ。よく殺さなかったなって自分自身を褒めたいぐらいだ――正直この件は、まあ殴ったのはやり過ぎたとは思ったけど、それでも楽に決着が付くと思ったんだ。あの赤城 セイトが関わってくるまでは・・・・・・」


「話を聞く限り、金絡みだな」

 

 俺はそう思った。

 ラノベで大賞を取ると、とんでもない金額を得られる。

 法律の関係でそのまま支払われはしないが三百万のお金が鑑 ほのかの懐に入った筈だ。


「ああ、その三百万の金かなり使い込んだみたいだけどな。それの返却されたくなかったみたいだしな」


「大方、金を得て舞い上がってブランド物のバッグとか服でも買い漁ったんでしょうね」


 女性の手毬の推理で恐らく間違いはないだろう。

 ファッションに少しでも精通している人間ならば分かると思うが、とにかく服やバッグ、靴などブランドものはかなり高い。


 よく物語の世界に出て来る裏社会の人間なんかは、マネーロンダリングの手段として金をブランド物のバッグに替えていざとなったら売却出来る様にしておくらしい。

 それぐらいブランド物の服や装飾品はお金が掛かるのだ。


「その推理間違いないと思うよ。一回デートした事あるけど、金銭感覚おかしかったし・・・・・・パパから小遣い貰ってるとか言った時は耳を疑ったな」


「パパから小遣いって言う奴、リアルでいるのかよ」


「絶対結婚したらダメなタイプね。専業主婦させたらそれだけで破滅するわ」


 手毬の評価通りだろうと思った。(てかドン引きしてるし・・・・・・)

 パパから小遣い貰ってるとか言う奴初めて聞いた。

 

「最後に、赤城 セイトと鑑 ほのかはどう言う感じだった?」


 再び話の路線を戻す。


「正直分からない。君達の方が詳しいんじゃないかな? 鑑さんを彼女とか、俺の女に手を出しやがって・・・・・・とか言って赤城は因縁付けて来たけど・・・・・・鑑さんは赤城とは仲が悪いんじゃないのかな? とても親しいとは思えなかった。手毬さんの前で・・・・・・こう言う言い方するのはアレだけど・・・・・・」


「私は構わないわ」


「ありがと・・・・・・正直、その・・・・・・体のなんたらって奴じゃないかな?」


 表現を暈かして伝えたが意味は伝わる。俺達とは違って根は真面目な性格なんだろう。

 さっきの玄関の様子を見てもその表現が間違いだとは思わなかった。 

 


 和泉先生と連絡先を交換し、俺達はその場を後にした。

 両親からもまた来て欲しいと言われた。

 色々とこの事件で息子に対して心配しているのだろう。


 帰り道俺は手毬と一緒にこの事件を整理していた。


「まだ鑑と赤城の付き合いが不明だけど、偶然が重ねって事態が重くなったって感じじゃないか?」


「そうね。私もそう思う。赤城がどうして和泉先生の口止めに協力しているのかは、本人の口から聞いてみないと分からないけど碌な内容じゃないと思うわよ」


「だろうな」


 現実なんてそんなもんだ。

 ラノベとかだと深い理由があったり、意外な理由があったりするが、現実だと「そんな理由で?」と言う単純な犯行動機が多い。


 中には「ただ人を殺したかったら殺した」とか、「自分でも分からずに衝動的に殺した」と言うケースとかもあるが、そんな理由でも「ああ、またそんな理由でか」とある種の常識の範疇で受け止められてしまうのが現代の犯罪事情である。


「正直、鑑 ほのかはもう放っておくとして、和泉先生と牛島さんを守る事に専念した方がよくないか? 事後承諾になったけどSNSで情報拡散したし、後は国家権力任せにしてさ」


「そうね・・・・・・」


 和泉先生には悪いがある程度事件の真相をSNSで拡散した。

 残念ながら今回の一件は無関係な人の人生まで掛かってるのだ。

 大目に見て貰うしか無い。


 それと担当の編集さんにも分かってる範囲の情報を公開している。それと責任を持って和泉先生の面倒を見る事を頼んでおいた。相手の良心に付け込むようで悪いが、人間ある程度罰則与えた方が救いになる方があるのだ。


 後は守る事に専念すれば自然に事態は収束するだろう。


「だけど何時ものパターンだとこのままだと終わらないのが俺達のお約束だよね」


「ええ・・・・・・不思議とそう思うわ」


 レッドスターの赤城の目的が掴めないし、鑑 ほのかがどう動くか分からない。

 一戦交えるのを覚悟しながら帰路についた。

 

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